吉永小百合さんに聞く(上) 東北への思い
女優の吉永小百合さんは、CMやポスターの撮影でたびたび東北地方を訪ねている。最も印象深い場所に、岩手県宮古市の陸中海岸「青の洞窟」をあげた。東日本大震災の被災地には「行くことが大事。何か買ったり泊まったりすれば、いまだにつらい思いをしていらっしゃる方々を元気にする」。また、秋田県横手市に文学記念館のある作家、石坂洋次郎とは「切っても切れない」深い縁があった。震災8年を前に話を聞いた。(秋田支局長 藤沢志穂子)
吉永さんが「青の洞窟」を訪ねたのは、震災から1年後の2012年春。「青の洞窟」は、有名な浄土ケ浜から小型の磯船「さっぱ船」で行くスポットで、洞窟の中にコバルトブルーの海面が広がる。JR東日本のシニア向け旅行企画「大人の休日倶楽部」のCMとポスターの撮影だった。
吉永さんの訪問に、被災地は大いに勇気づけられたはずだ。「さっぱ船」に乗ると、船頭がこう話した。「うちのおっかあは、津波と一緒にいなくなっちゃったんだよ」。この情景を思い出しながら、「胸がいっぱいになりました。元気に仕事を始められたということで、印象に残っています」と話す。
2012~13年に岩手県と宮城県の被災地を訪ねたほか、秋田県では県立美術館で、藤田嗣治が市井の人々の暮らしを描いた「秋田の行事」を見た。「私、めちゃめちゃ藤田のファンなのでうれしくて。子供たちの表情や祭りの様子に、心が温かくなりました。秋田は派手なものが少ないですから、地元にちなんだものを展示するのは大事なことです」
吉永さんと東北をつなぐ、大切なものの一つが、作家の石坂洋次郎(1900~86)との親交だ。
石坂が秋田県横手市の高校で教えていた経験を投影した「青い山脈」など、全16本の石坂作品に10~20代にかけて出演。同市の石坂洋次郎文学記念館には生前の石坂と撮影した写真やサインを提供、葬儀で読んだ自筆の弔辞とともに展示されている。
JR横手駅では映画の主題歌で、藤山一郎が歌った「青い山脈」を、2011年から発車メロディーに使っている。東日本大震災の影響で、観光客が激減した街を何とか活気づけたいと考えた市職員の発案で、当時中学生だった佐藤亮太さん(20)が、アレンジと演奏をエレクトーンで担当した。最後が明るく終わるように工夫したという。