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【鑑賞眼】認知症の人の「真実」 東京芸術劇場「Le Pere 父」

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威厳があった父(橋爪功、右)の変化に、アンヌ(若村麻由美)は戸惑う(引地信彦撮影)
威厳があった父(橋爪功、右)の変化に、アンヌ(若村麻由美)は戸惑う(引地信彦撮影)

 認知症を扱った作品は多数あるが、今作が画期的なのは、認知症の人から見える主観的世界を、巧みに描写した点にある。安全なはずの家庭で、環境が変化し、家族を名乗る闖入者(ちんにゅうしゃ)に驚き、時間の流れが混濁する。家が迷宮となり、異邦人となっていく不安を、観客も体験できるのだ。

 1979年生まれの仏劇作家、フロリアン・ゼレールのモリエール賞受賞作。祖母に育てられ、晩年の変化も見続けた作者が2012年、当時86歳の仏名優ロベール・イルシュに書き下ろし、今回が本邦初演だ。演出は仏初演も手がけたラディスラス・ショラー。

 物語は、パリで1人暮らしをする80歳のアンドレ(橋爪功)の異変に、娘アンヌ(若村麻由美)が戸惑う場面から始まる。アンドレが介護者を泥棒扱いし始め、認知機能の衰えが顕在化。娘夫婦と同居するも、家族が疲弊し、施設入所へと進むのは万国共通だ。

 現在と過去が往来し、さらにはアンヌの夫ピエール(今井朋彦、吉見一豊)が入れ替わるなど、観客も戸惑うが、それこそ認知症の人が見える“真実”。身につまされるが、これを軽やかに見せるのが、橋爪の飄々(ひょうひょう)としたキャラクターだ。威厳のあった父が、子供に返る過程を、ごく自然な変化として演じる。5人の共演者も適材適所で、特に若村は親思いゆえのいらだちや疲れもリアルに見せた。

 白く無機質な舞台装置で、アンドレの心象を浮かび上がらせる照明も印象的。必見の舞台である。24日まで、東京都豊島区の東京芸術劇場。全国公演あり。(飯塚友子)

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