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【鑑賞眼】メロドラマの浄化

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 ■ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812

 トルストイの大長編「戦争と平和」を不敵にもミュージカル化した。と言っても、第2巻に出てくるピエールの決闘と、ナターシャのよろめきの部分のみ。これを全編歌だけでつづる。デイブ・マロイ音楽・脚本。小林香訳詞・演出。

 酔いどれの思索家ピエール(井上芳雄)は妻のエレン(霧矢大夢)の不倫相手に決闘を申し込み、負傷させる。伯爵令嬢ナターシャ(生田絵梨花)は婚約者のアンドレイ(武田真治)が出征中、色男のアナトール(小西遼生)に誘惑され、駆け落ちしようとする。

 ブロードウェー版は会場全体に時代を思わす装飾がなされ、俳優と観客の区別がつかないほど舞台と客席とが入り組んだ混然一体の空間だった。ピロシキまで配られ、19世紀のロシアの社交場に立ち会ったかのような熱い祝祭感があった。

 日本版では舞台に穴を開けて客席を設(しつら)えたが、この一体感が中途半端。少数の人物しか出ない場面では、舞台にぽっかりと空いた空虚さがむしろ目立った。

 ただ主役の井上は存在感を発揮し、健闘している。総じて歌唱力が高く、合唱とダンスに猥雑(わいざつ)な活力がある。ナターシャを心配するいとこのソーニャ(松原凛子)の歌が聴きどころ。

 ナターシャとピエールが心を通わす終盤、俗なメロドラマが浄化される。輝く大彗星(すいせい)にピエールが希望を見いだす瞬間に、物語としても舞台としても救いがある。

 27日まで、豊島区の東京芸術劇場プレイハウス。(演劇評論家 小山内伸)

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