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【映画深層】「夜明け」で是枝監督の秘蔵っ子がデビュー

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映画「夜明け」から。木工所で働くことになったシンイチ(柳楽優弥)は… (c)2019「夜明け」製作委員会
映画「夜明け」から。木工所で働くことになったシンイチ(柳楽優弥)は… (c)2019「夜明け」製作委員会

 是枝裕和(これえだ・ひろかず)監督の秘蔵っ子が劇場デビューを飾る。1月18日公開の「夜明け」は、「万引き家族」でカンヌ国際映画祭の最高賞に輝いた是枝監督のもとで修業を積んだ広瀬奈々子監督(31)の初長編で、疑似父子のもろく崩れやすい関係性を手持ちカメラによる自然な映像で見つめた意欲作だ。

自由が不自由という感覚

 とある地方の町で木工所を営む哲郎(小林薫)は川辺で倒れていた青年(柳楽(やぎら)優弥)を見つけ、自宅に連れ帰って介抱する。シンイチと名乗る青年は行くあてがなく、哲郎は木工所で働かせるが、黙々と働くシンイチに徐々に特別な感情を抱いていく。哲郎は8年前に妻と息子を交通事故で失っており、木工所を継ぎたくないと反抗していたその息子の名前が真一だった。

 哲郎、シンイチ双方の過去がだんだんと明らかになり、お互いの複雑な思いが絡み合っていく様子を、自然光を生かした落ち着いた映像でじっくりと見せていく。父と息子の関係にも似た男同士の心の揺れが巧みに表現されているが、これが女性監督による初長編映画というから恐れ入る。

 「最初に考えたのは、権威的な人間とそれに従うことしかできない人間の上下関係でした。それは男性の方がより背負わせやすいのではないか。それにシンイチは結構、私に似ている部分がある。以前は本当に受け身だったし、自由であることが不自由だという感覚はよくありました」と広瀬監督は説明する。

 今回の企画も、全く制約のない自由な中でもがき苦しんだ結果、ようやく見つけたテーマだった。脚本には1年半を費やした。

 「人間関係における美しい部分ではないものをちゃんと見つめたかった。弱い人間だからこそ生まれるエゴであったり、どうしようもなさだったり。それは第1作だから描けるもので、監督として安定してからではできないんじゃないかと思うんです」

魚をさばくアルバイトも

 広瀬監督自身は20歳で父親を亡くしているが、父への思いを作品に投影したわけではないという。大学は装丁家だった父と同じ武蔵野美術大学に進んだ。母親の影響で映画が好きだったこともあり、映像学科を選んだが、特に監督を志望していたわけではなかった。授業の一環で監督を務めることもあったが、むしろ同級生の作品を手伝うことの方が多かった。カメラに録音に車両にと何でもこなし、チームワークが悪くてばらばらになりそうになると仲裁役を買って出た。

 「人を呼び戻す説得をしたりして、意外とそういうのが嫌いじゃなかった。演出には興味があったが、どうやったら監督になれるのかわからず、そのまま卒業してしまいました」

 しばらくはアルバイトに明け暮れる毎日で、和食料理店で魚をさばいたりしていたが、そんなときに友人が制作者集団「分福(ぶんぶく)」の監督助手の募集案内を見つけてきた。分福は、是枝監督が「ディア・ドクター」などの西川美和監督らと興した会社で、若手を育成することも目的の一つ。このときが初めての募集だったが、約140人の応募から面接などを経て、合格したたった2人のうちの1人が広瀬監督だった。

 「是枝さんらと話していて、何となくこの人たちと縁がありそうだなという感覚はありましたね」と広瀬監督は振り返る。

監督のそばで意見を言う

 入社後は是枝監督のもとで3年間、「監督助手」として徹底的に鍛えられた。監督助手は是枝監督が編み出した特別なポジションで、助監督とは違い、監督のそばでいろいろな意見を言うのが役目だ。現場を止めることになり、最初はプレッシャーでとても言い出せなかったが、それでも何か言わなくてはならない。その意見がいいのか悪いのか、言葉で返す人ではないが、ずっと一緒にいるうちに自ずとわかるようになった。

 「私が言ったことで急に是枝さんが動き出したりして、あ、いいところを突いたんだなとわかる。作品のために貢献できたという喜びがあって、やりがいを感じるようになったし、とても勉強になりました」

 その後、西川監督の「永い言い訳」にも監督助手で入ったほか、テレビのドキュメンタリー番組やCMなどのディレクターを少しずつこなしながら、長編映画の企画を練っていった。デビュー作の「夜明け」は、平成30年10月の釜山国際映画祭(韓国)に出品されたほか、アジアの先鋭的な作品が集まる11月の東京フィルメックスでは審査員からスペシャルメンション(受賞作と遜色がないという意思表示)を贈られた。

 「できあがってからもいろんな解釈と対話が生まれる。それは監督をしないと体験できないことだったと思う」と映画の魅力を語る広瀬監督。師匠の是枝監督には「デビュー作にはいい部分と悪い部分の両方があるものだし、それは自分が一番わかっていると思う。それ以上に作家性の強いものになったんじゃないか」との言葉をもらった、とうれしそうにほほ笑んだ。(文化部 藤井克郎)

 広瀬奈々子(ひろせ・ななこ) 昭和62年、神奈川県生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒。平成23年から制作者集団「分福」に所属する。是枝裕和監督の「そして父になる」(25年)、「海街diary」(27年)、「海よりもまだ深く」(28年)、西川美和監督の「永い言い訳」(28年)などに監督助手として参加。「夜明け」が初監督映画となる。

 「夜明け」は、1月18日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)、イオンシネマみなとみらい(横浜市中区)、ミッドランドスクエアシネマ(名古屋市中村区)、なんばパークスシネマ(大阪市浪速区)、サロンシネマ(広島市中区)、イオンシネマ福岡(福岡県粕屋町)、札幌シネマフロンティア(札幌市中央区)、フォーラム仙台(仙台市青葉区)など全国で公開。

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