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【鑑賞眼】「The Silver Tassie 銀杯」 堕ちた英雄の無残さ 世田谷パブリックシアター

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 1929年初演のアイルランド劇が本邦初演された。笑いや音楽を満載しながら、戦争の非人間性を訴えた反戦悲劇だ。ショーン・オケイシー作、フジノサツコ訳、森新太郎演出。

 出征前、ハリー(中山優馬)はフットボールの試合でチームを優勝に導き、銀杯を胸に意気揚々と凱旋(がいせん)する。ところが戦場から帰還後、ハリーは下半身不随となって失意の日々を送っている。恋人だったジェシー(安田聖愛(せいあ))は、仲間のバーニー(矢田悠祐(ゆうすけ))と恋仲になっていた…。

 戦場のシーンが特異。兵士らはグロテスクな風貌の人形によって演じられるのだ。兵士は個性を抹殺された駒にすぎないことを戯画化した演出だ。盗みを働いたバーニーだけが人間の姿のまま縛られているが、彼は軍律に背いたという一点で皮肉にも人間たり得ている。歌も多く挿入され、ドイツの劇作家、ブレヒト的な異化効果を用いて戦争の狂気をあぶり出す。「担架担ぎの唄(うた)」がいい。

 終盤、車椅子(いす)姿のハリーがつく悪態は目を覆わんばかり。戦争によって「堕とされたヒーロー」の無残さをさらす。彼のみならず、専横な夫だったテディ(横田栄司)や、敬虔(けいけん)なキリスト教徒だったスージー(浦浜アリサ)も威厳を失っている。

 山本亨と青山勝によるコミカルな芝居が劇世界を等身大につなぐ。悲劇なのに滑稽な状況が相次ぐあたりに、戦争の荒廃が逆説的に示されているかのようだ。

 25日まで、東京都の世田谷パブリックシアター。(演劇評論家・小山内伸)

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