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【谷賢一の演劇地獄道(20)】三文オペラに新風を

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【谷賢一の演劇地獄道(20)】
三文オペラに新風を

「三文オペラ」を志磨遼平氏(右)と飜訳中 「三文オペラ」を志磨遼平氏(右)と飜訳中

 「アイラブユーを何と訳すか」と尋ねられた夏目漱石が「日本人が『愛している』じゃ恥ずかしい。『月がきれいですね』とでも訳しておくさ」と答えたという小話がある。実はこれ出典不明でデマ説もあるが、私も好きなエピソードだ。ただ単語を移し替えるのではなく、意図やムードをくみ取って言葉を生み出す。翻訳の理想だろう。同じ月を見てきれいだと思う、そのことを通じて2人の間にある愛を語るというのは、昔かたぎの亭主関白だった漱石が糟糠(そうこう)の妻・鏡子にいかにも言いそうで、妙な説得力を感じてしまう。

 忌野清志郎「デイドリーム・ビリーバー」は米バンド・モンキーズが原曲だが、亡き母への思いを歌った曲だと聞いている。歌い出しはすさまじい意訳で、早朝に目覚ましが鳴ることくらいしか共通点がない。原曲では母死んでないし、ずっと夢を見て安心してもいない。ほぼ自由創作だが完璧な音のハマり具合と切ない物語性で、もはや原曲を超えた。しかし全く違う曲でもなく、モンキーズは現在進行系の恋人と過ごす日常、清志郎は亡き母親と過ごした日常、それぞれの多幸感を音楽化し、表裏一体に似ているのが面白い。

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