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【鑑賞眼】歌舞伎座「六月大歌舞伎」 三者が魅了する男の哀愁

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【鑑賞眼】
歌舞伎座「六月大歌舞伎」 三者が魅了する男の哀愁

 松本幸四郎、中村吉右衛門、片岡仁左衛門。熟成した技芸と情感で、それぞれが魅了する男の哀愁。

 昼の「弁慶上使」。吉右衛門の武蔵坊弁慶が人目をはばからず号泣する。大毬栗(いがぐり)の鬘(かつら)に赤隈取のメーク。「勧進帳」でうたわれる“ついに泣かぬ弁慶”が初めて見せる男の涙。源頼朝から義経の正室、卿(きょう)の君(中村米吉)を討てと命じられた弁慶が、腰元しのぶ(米吉の2役)を身替わりにする。が、しのぶは18年前弁慶が生涯たった一度だけ契った女性おわさ(中村雀右衛門(じゃくえもん))の娘だった。首をはねた後に知れる弁慶-おわさ-しのぶの因果。弁慶の稚気あふれる泣きっぷりを、吉右衛門が豪快な絵姿で見せる。

 夜に幸四郎の対照的2作。「鎌倉三代記・絹川村閑居(きぬがわむらかんきょ)」で滑稽な村人、藤三郎から実は佐々木高綱(真田幸村がモデル)になって厳然と現れる武将姿への変身が鮮やか。時姫で雀右衛門。「一本刀土俵入」では、駒形茂兵衛(もへえ)。取的(出世前の力士)から渡世人へ。孤独と故郷への思慕。お蔦(つた)(市川猿之助(えんのすけ))と同じ根を持つ者同士の心の響き合い。幸四郎と茂兵衛が重なる名芝居だ。

 そして、仁左衛門。「御所五郎蔵(ごしょのごろぞう)」で傾城皐月(けいせいさつき)(雀右衛門)をめぐって武士の星影土右衛門(どえもん)(市川左團次)といがみ合う侠客(きょうかく)、五郎蔵。左右の両花道に分かれてのつらねのせりふ声の艶と響きに圧倒される。訳あって皐月に愛想尽かしされる場も、美男ぶりが勝(まさ)って逆に格好いい。

 昼は他に「名月八幡祭」と「浮世風呂」。26日まで、東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)

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