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【話の肖像画】漫画家・ちばてつや(2)敗戦後に暴動、一家全員の逃避行

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【話の肖像画】
漫画家・ちばてつや(2)敗戦後に暴動、一家全員の逃避行

漫画家・ちばてつや(橋本昌宗撮影)

 〈終戦は、満州で暮らす人々の暮らしを大きく変えた。敗戦国民となった日本人は、それまで親切だと思っていた現地の住民から、次々に物を奪われる日々が始まった〉

 玉音放送を工場長の家で大人たちが聞いた日から、塀の外がものすごく騒がしくなって、笑い声や爆竹がはじけるような音が響き渡った。夕方には夕日を背景に男たちが塀を乗り越えてきたんだ。ぼくは社宅の庭でぼんやり見ていたんだけれど、母親が慌てて玄関にタンスや机を立てかけていてね。ぼくたち子供は押し入れにほうり込まれて、布団をかぶせられて。

 起こったのは、いわゆる暴動でした。これまでいろいろとたまっていた日本に対する鬱憤を晴らそうっていうんでしょう。結局、ぼくの家の中には入ってこなかったけれど、家の外からはガラスが割れる音や悲鳴が一晩中あちこちから聞こえてきた。

 〈暴動がいったん収まると、辺りは静寂に包まれた。トラックや紙など貴重品は根こそぎ持っていかれた。工場内では安全が確保されないと考えた日本人たちは、脱出を決意する〉

 しばらく暴動に耐えて、備蓄してあった食料で食いつないでいたけど、限界が来ることは最初から分かっていたんだ。終戦から2週間ぐらいたったころかな。とにかく移動しようということになり、母親がありったけの米でおにぎりを作り、ぼくはアルバムなんかを持たされてね。肩から水筒をさげて、リュックにはタオルとかおしめとか詰め込んで、深夜0時に出発するというので半分寝ながらついて行ったんだよ。

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