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【鑑賞眼】国立劇場「伊賀越道中双六」 適材適所の俳優陣、一等の出来栄え

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【鑑賞眼】
国立劇場「伊賀越道中双六」 適材適所の俳優陣、一等の出来栄え

 講談や映画でも名高い荒木又右衛門の仇討(あだう)ち物語。歌舞伎では「伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」となって、今回は又右衛門こと唐木政右衛門(中村吉右衛門)が、義弟・和田志津馬(しづま)(尾上(おのえ)菊之助)に助太刀、義父を殺した沢井股五郎(中村錦之助)を討ち果たすまで。仇討ちに狂奔する兄弟の執念に絞ったため、「饅頭(まんじゅう)娘」、上演頻度が高い人気場面「沼津」も脇筋ゆえにカットされた。

 政右衛門初役の吉右衛門以下、出演陣のバランスが適材適所で一等の出来栄えだ。悲願のためには全て善、周囲の悲惨はお座なりで済ます武家社会の理不尽さに顔をしかめつつ、俳優たちの悲喜こもごもを表現する演技に酔わされてしまう。

 44年ぶりに出た「山田幸兵衛住家の場」(通称「岡崎」)が悲惨極まる。股五郎側にいる昔の剣術師匠・幸兵衛(中村歌六(かろく))に仇討ちの身を秘すため、極寒の中、現れた妻・お谷(中村芝雀(しばじゃく))を見捨て、己の乳飲み子まで殺害、庭にほうり投げてしまう政右衛門。「先代萩(せんだいはぎ)」の「飯炊(ままた)き」から「御殿」の政岡に通じる。吉右衛門のさりげなさ、歌六の全て承知の様相が逆に鬼気迫るスリラーだ。

 その前段「遠眼鏡」の場が正反対の笑いを誘って救われる。奴・助平(すけへい)の中村又五郎が名前通りの色好みで愉快。そして、志津馬に一目ぼれする茶店の娘実は幸兵衛娘・お袖の中村米吉がなんともかわいい。菊之助の美男ぶりと初々しく絡み、客席からため息がもれる。一見の価値あり。26日まで、東京・隼町の国立劇場。(劇評家 石井啓夫)

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