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【鑑賞眼】歌舞伎座「十二月大歌舞伎」 見事な5役、海老蔵の独壇場

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【鑑賞眼】
歌舞伎座「十二月大歌舞伎」 見事な5役、海老蔵の独壇場

 昼。「源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)」から「義賢(よしかた)最期」。片岡愛之助が木曽義賢をしっかり受け継ぐ。病身ながら、肚(はら)に源氏への忠義を秘める前半から、平家方との修羅場へ向かう後半へ。静から動の見得(みえ)、台詞廻(せりふまわ)し、極まるところ、現片岡仁左衛門(にざえもん)のうつし絵のよう。戸板倒し、仏倒れなど、迫力ある立ち廻りも息をのむ。両手を広げ、まさに“ぶっ倒れ”る。

 坂東玉三郎演出の新作歌舞伎「幻武蔵」は、「天守物語」でなじみの姫路城天守閣で、宮本武蔵(中村獅童)と小刑部(おさかべ)明神実は富姫(尾上松也)が交わす人生問答。幻覚性より観念性が強い。獅童、松也の声、振りに歌舞伎味が薄いからだ。玉三郎が淀君の霊で登場。切りに長唄舞踊「二人椀久(ににんわんきゅう)」。松山太夫(玉三郎)に恋狂う椀屋久兵衛。初役の市川海老蔵がふるわない。松山に添う連れ舞も久兵衛に夢心地の“あはれ”が匂わない。玉三郎の艶が独り歩きの感。

 夜。海老蔵が一転、水を得た魚、市川團十郎家に伝わる荒事、愛嬌(あいきょう)の魅力を独壇場の輝きで見せる。歌舞伎座では初めての「雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)」の通し上演。父・團十郎らも勤めた3役に加え、5役に挑む。なかでも「毛抜」の粂寺(くめでら)弾正が傑出。若衆、腰元を口説き、相次いでフラれる愛嬌。「鳴神」の上人(しょうにん)では雲の絶間姫(玉三郎)と絶好の色模様。謀られたと知って、怒髪、天を突く柱巻きの見得が見事だ。早雲王子の悪、安倍清行の作り阿呆(あほう)風な白塗り顔もおかしい。大詰、宙に浮かぶ不動明王で幕。26日まで、東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)

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