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【「昭和」の青春】第5話《いちご白書をもう一度》…「戦わなければ敗北もない」と語る会社社長(63)

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【「昭和」の青春】
第5話《いちご白書をもう一度》…「戦わなければ敗北もない」と語る会社社長(63)

 常連客のひとりが「赤いウインナーちょうだい」と注文すると、他の客も「オレも」「オレも」と声をあげ、カウンターの上は赤いウインナーが並ぶことに=「昭和」の店内

社長と専務の話

 その夜、カウンターの端に陣取っていたスーツ姿の2人は、神田、それもフォーク酒場には似つかわしくない雰囲気を醸し出していた。2人にふさわしいのは赤坂か六本木あたりのスナックではないか。店のピアニストに伴奏させてムード歌謡でも歌うのが似合っている。男は遊ぶ街に染められていく。新橋は新橋らしく、銀座は銀座らしく。神田で遊ぶ男は神田色に染められていくのである。

 2人は一緒にステージに上がり、年長のメガネをかけたニヒルな男がギターを、年少の遊び人ふうの男がマイクを手にした。マイクの男はチューリップの《サボテンの花》(75年、財津和夫作詞作曲)をやると宣言し、客席からはドラムスとベースを募った。フォーク酒場昭和が面白いのは、いつであろうと間違いなくドラムスやベースのできる客がいるところだ。店のステージアシスタントであるタカ君にはあらかじめリードギターを依頼していたようで、あっという間にバンドが出来上がる。ニヒルな男がギターをかき鳴らし始めると、すぐに即席のメンバーが演奏に加わっていった。

 一緒に暮らした女性との別れを歌った《サボテンの花》は93年にフジテレビ系ドラマ『ひとつ屋根の下』の主題歌になったことで、1世代下にもよく知られるようになった。べたつくことのない切なさがすてきな名曲である。

 マイクの男はかなり深い思い入れがあるようで、歌詞を大切に歌い上げる。ギターのニヒルな男の顔が崩れ、笑顔になっていく。その顔は赤坂ではなく神田が似合っていた。  マイクの男がステージを降りると、ニヒルな男は「全共闘世代だからこの歌」と説明して、ダウンストロークを始めた。言うまでもなく大学闘争の敗北を題材にしたバンバンの《いちご白書をもう一度》(75年、荒井由実作詞作曲)である。この店の人気曲ゆえ、即席バンドのメンバーもすぐに合わせていった。

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