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【鑑賞眼】歌舞伎座「七月大歌舞伎」 玉三郎の美意識 極上の天守物語

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【鑑賞眼】
歌舞伎座「七月大歌舞伎」 玉三郎の美意識 極上の天守物語

 夜の「天守物語」が極上だ。泉鏡花の妖(あや)しの世界の息遣いが、色となり音となり香りをも乗せて客席に降り注ぐ。

 富姫の坂東玉三郎、姫川図書之助(ずしょのすけ)の市川海老蔵コンビは5度目。演出も兼ねる玉三郎の美意識が、とことん極まる。亀姫(尾上右近)持参の生首を艶然と眺める富姫と無邪気に笑み返す亀姫のさまが美しく、みずみずしい。残酷を超えた美。禁断の天守に上ってきた図書之助と恋に落ちる富姫とのやりとりで美醜逆転のテーマがはっきりする。

 人間界の穢(けが)れはより醜く哀(かな)しい。玉三郎の知、海老蔵の情、台詞(せりふ)が軟らかく膨らみ絡み合う。海老蔵、玉三郎に呼応してメリハリりりしく謳(うた)う。通常の鼻音強めて流れる節回しよりずっとよいと思うが…。近江之丞桃六で片岡我當(がとう)。

 昼にも海老蔵の団七九郎兵衛(くろべえ)、玉三郎の徳兵衛女房お辰で「夏祭浪花鑑(なにわかがみ)」の通し。「お鯛茶屋」から出て、団七と一寸徳兵衛(市川猿弥(えんや))の友情の過程、お辰と団七女房お梶(上村吉弥)の関係性がよくわかる。「長町裏」で団七の義父・義平次(市川中車)殺し。歌舞伎座初登場の中車が強欲爺を巧みに表現。その技巧を歌舞伎的誇張で見せたい。市川左團次が釣舟三婦(さぶ)で見事な老侠客(きょうかく)ぶりだ。

 夜の「修禅寺物語」は、中車の夜叉王(やしゃおう)、市川月乃助の源頼家、市川笑三郎の桂、市川春猿の楓。昼夜初めに市川右近ほかで長唄舞踊「正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)」、「悪太郎」が付く。29日まで、東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)

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