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【鑑賞眼】東京バレエ団「ザ・カブキ」 東西の伝統が生んだ傑作

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【鑑賞眼】
東京バレエ団「ザ・カブキ」 東西の伝統が生んだ傑作

 20世紀バレエの巨匠ベジャールが、歌舞伎「仮名手本(かなでほん)忠臣蔵」を題材に東京バレエ団のために創作した本作は、昭和61年の初演以来踊り継がれ、昨年はパリ・オペラ座で喝采(かっさい)を浴びた。

 幕開きは現代の日本。高速で行き交う情報、無気力な若者たちの群れ。そこに一振りの刀が出現すると、現代が過去に滑り込む。八幡宮での顔世御前(かおよごぜん)の兜改(かぶとあらた)めと卑劣な師直(もろのお)の振る舞い、ほほえましい勘平とおかるの逢瀬を、若者は異国からの旅人さながら傍観するが、物語は急転、師直が塩冶判官(えんやはんがん)を挑発し殿中松の間の悲劇へ。無念の死を遂げる判官に遺言と懐刀を託された若者は、由良之助として四十七士を率い仇(あだ)討ちに突き進む。

 過去に無関心だった若者とともに観客は絢爛(けんらん)な時代絵巻に入り込み、貞節や自己犠牲、忠誠など普遍的感情を見いだす。山崎街道の場の意思を超越した非情な運命の連鎖、遊郭に漂う陰謀と悲哀、主君のため戦う気高い侍の魂は時代も国境も超え胸に迫り、単なる異国趣味に堕さない。バレエの型とすり足など和の所作も美しく融合。雪舞う闇を鋭い跳躍で切り裂き、渦を成す討ち入りの男性群舞の迫力はこの作品独自の見せ場だ。

 主役・由良之助の柄本弾(つかもと・だん)は、端正な姿と意識の行き届いた踊りで魅力にあふれ、仇討ちを決意するソロも深い懊悩(おうのう)と精神の古層に潜む武士道精神の蘇りを丁寧に見せて見事。東西の伝統が生んだ傑作バレエである。12月14日、東京・上野の東京文化会館。(舞踊評論家 岡見さえ)

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