【映画深層】フェイクニュース時代に突きつける「飢えたライオン」 映画で目指すジャーナリズム - 産経ニュース

【映画深層】フェイクニュース時代に突きつける「飢えたライオン」 映画で目指すジャーナリズム

映画「飢えたライオン」の一場面 (C)2017 The Hungry Lion
映画「飢えたライオン」の一場面 (C)2017 The Hungry Lion
映画「飢えたライオン」の一場面 (C)2017 The Hungry Lion
映画「飢えたライオン」の一場面 (C)2017 The Hungry Lion
映画「飢えたライオン」の一場面 (C)2017 The Hungry Lion
映画「飢えたライオン」の一場面 (C)2017 The Hungry Lion
「飢えたライオン」を手がけた緒方貴臣監督(藤井克郎撮影)
 目指すものは映画でのジャーナリズムだという。9月15日公開の「飢えたライオン」を手がけた緒方貴臣(おがた・たかおみ)監督(37)は、高校も中退、映画学校も中退、最初の作品はビデオカメラの取り扱い説明書を読みながら撮ったという異色の映画作家だ。SNS(会員制交流サイト)によるデマの拡散をモチーフにした新作について「社会的な制裁をすることを正義だと思っている。そういう部分が誰の中にもあると気づいてほしかった」と熱く語る。
感情移入はさせない
 「だからなるべく主人公には感情移入させないようにと思って作りました」と緒方監督は続ける。
 主人公はごく普通の高校生、瞳(松林うらら)。ある日、担任の教師が児童ポルノ禁止法違反容疑で逮捕され、女子高校生とのわいせつ動画が流出する。その相手が瞳ではないかという噂がSNSで拡散。本人は単なるデマだと軽く受け流していたが、やがて恋人や同級生、家族らの瞳を見る目が変わっていく。
 「社会から孤立したり、問題を抱えていたりする登場人物に対して、観客は感情移入し、最後は涙で浄化されて終わりということになりかねない。それは絶対にだめだ。だから映画とのある程度の距離感が必要で、なるべく遠くから撮る、感情をあおる音楽を使わない、物語的にはしないということに気をつけました」
 中でも特徴的なのは、場面がいきなり途切れ、しばらく真っ暗な画面が流れる点だ。これはまばたきを意味し、再び目を開けたら次の場面に移っているという感じにしたかったという。
 「途切れることで感情も1回切れるので、感情移入しにくい。特に映画館で見ると本当に真っ暗になるので、すごく効果がある。誰かの人生をのぞき見るという感覚が、より鮮明に出るんです」
説明書を読みながら
 福岡市の生まれで、もともとはジャーナリストを志望していた。一方で映画も大好きで、小学生のころ、習っていたピアノの先生と一緒にジェーン・カンピオン監督の「ピアノ・レッスン」(1993年)を見にいって、官能的な映像美に「これこそ芸術だ」と衝撃を受けた記憶がある。
 さらに運命の1本となったのが、ジャン=リュック・ゴダール監督の「ゴダールの映画史」(88~98年)だった。全8章からなる壮大な映像記録で、「映像や情報の流れを自分の頭の中で処理していくという、そんな映像体験があるんだと思った。そこから映画に対する考え方がかなり変わりました」と振り返る。
 高校を中退して起業したり、海外を放浪したりしたが、27歳で「映画学校に入って勉強するしかない」と上京した。だが入学した学校の同級生は誰もゴダールの映画を見ていないどころか、ゴダールのことを知らない人もいてがくぜんとする。「こんな人たちとは映画を撮れない」と、またも中退してデジタルビデオカメラを購入。説明書を読みながら自分でカメラを回して撮ったのが、「終わらない青」(平成21年)という作品で、いきなりの長編だった。
 「練習作だし、最初は20分くらいの短編にしようと思っていた。でも見よう見まねで撮っているから、結果的に70分弱の長編になって、撮ったからには映画祭に出そうと思って…」
 性的虐待と自傷行為を描いたこの作品は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭に選ばれたほか、沖縄映像祭では審査員長だった塚本晋也監督に激賞され、準グランプリを獲得。劇場公開にDVD化にと、予期せぬ展開を見せた。
ジャングルから覗く
 「あそこで映画祭に引っかからなかったら映画はやめていたと思う。でもちょっと評価されてしまったから、やめるにやめられなくなったというのが、正直なところです」と戸惑いを見せるが、今後もジャーナリズムを意識しつつ、芸術性と娯楽性を備えた作品を作っていくつもりだ。
 「芸術性と娯楽性と社会性を成り立たせようとすると、そんなにさらっとは脚本が書けない。でもどの側面から見ても面白いもの、新しいものをやっていきたいですね」と話す緒方監督は、今回の「飢えたライオン」は、何でも物語にしてしまう現代社会へのアンチテーゼでもあると訴える。
 「今やニュースもストーリー仕立てになっている。ストーリーにすると一見わかりやすいが、物事を矮小(わいしょう)化、単純化させてしまうところがある。一般の人がそれを求めているという側面はあるが、僕の映画ではなるべくそうはさせたくないなと思うんです」
 「飢えたライオン」というタイトルは、フランスの画家、アンリ・ルソー(1844~1910年)の作品から取った。ライオンがカモシカにかぶりついている背後のジャングルから、ヒョウやフクロウ、猿などがのぞき見ている絵だ。SNSやインターネットを通して、みんなで楽しんだり、傍観したり、あわよくば何かおこぼれがあるんじゃないかと狙っていたりする、そんな今の日本社会に似ているように緒方監督は感じた。
 「そういう意図で描かれた絵ではないと思うが、勝手にイメージが膨らんだという感じですね」とジャーナリスティックなアーティストの目で語った。(文化部 藤井克郎)
 緒方貴臣(おがた・たかおみ) 昭和56年、福岡市生まれ。高校中退後、起業するが、25歳で退社。海外放浪の後、上京して映画学校に通うが、3カ月で辞め、独学で映画製作を始める。平成21年の初監督作品「終わらない青」が沖縄映像祭で準グランプリを受賞し、23年に劇場公開。続く「体温」(23年)に続いて、育児放棄をモチーフにした「子宮に沈める」(25年)も話題を呼び、全国30カ所で公開される。4作目の「飢えたライオン」は、昨年の東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門に選ばれたほか、ロッテルダム国際映画祭、プチョン国際ファンタスティック映画祭、バレンシア国際映画祭など世界各地の映画祭で高い評価を受けている。
 「飢えたライオン」 9月15日からテアトル新宿(東京都新宿区)、10月13日からシネ・リーブル梅田(大阪市北区)、11月24日からシネマロブレ(栃木県小山市)など全国順次公開。