日本イタリア映画社・黒崎政夫さん、60過ぎて起業の「一目惚れ」 - 産経ニュース

日本イタリア映画社・黒崎政夫さん、60過ぎて起業の「一目惚れ」

「若い人にももっと外国映画を見てほしい」と語る黒崎政夫さん(藤井克郎撮影)
高校生の葛藤を描いたイタリア映画「最初で最後のキス」 
 飛行機内で出合った1本の映画が人生を変えた。のんびりと余生を過ごそうと思っていた60代の男性が、この作品を日本で見せたいと一人配給会社を設立。2日の公開を前に宣伝活動に奔走している。高齢社会が進行する中、「いくつになっても何でも始めることができる」を実践し、周囲に勇気を与えている。(藤井克郎)
 ◆機内の映画に夢中
 映画の配給を手がける「日本イタリア映画社」を設立したのは、東京都千代田区の黒崎政夫さん(64)。きっかけは平成28年夏、旅行でスペインに行ったときのこと。長時間のフライトとなったバルセロナ行きの機内で見たイタリア映画だった。イタリア語で「1つのキス」という意味の「Un Bacio」(イヴァン・コトロネーオ監督)。男女3人の高校生がいじめや性的偏見などと葛藤しつつ友情を交わしていくさまが描かれていた。
 「重いテーマにもかかわらずダンスシーンなどもあって楽しめた」と、到着まで4回も繰り返して見たという。さらにコトロネーオ監督が書いた原作小説も取り寄せて読んだ。
 日本でも多くの人に映画を知ってほしいとイタリアの映画会社に問い合わせたが、日本での配給権は販売されておらず公開の予定はなかった。黒崎さんは、自ら購入して映画を配給しようと、その年の暮れには会社を設立した。
 「翌年の29年1月にはローマに行って契約を交わし、監督と会って話を聞いた。これは肩の荷が重いなと初めて実感しました」と振り返る。
 ◆全国30館を目標
 日本での配給権を手に入れ、2つもの教育機関に通って映画配給のノウハウを学んだものの、難関は劇場との交渉。悪戦苦闘の末、外国映画の配給に実績があるミモザフィルムズ(東京都中野区)に協力を求め、「最初で最後のキス」の邦題で、2日から東京・新宿シネマカリテとアップリンク渋谷で公開されることが決まった。今後は、大阪など全国30館を目標にする。
 ミモザフィルムズの村田敦子社長は「全く経験のない人が作品に惚(ほ)れ込んで会社をつくってしまったというのは聞いたことがない。黒崎さんは勇気がある。いくつになっても何でも始めることができるということを実践している」と話す。
 ◆若き日の夢再び
 公開を目前に控え、黒崎さんは語学学校やカフェ、バーなどを回ってチラシを置いてもらうなど、多忙な日々。今後も大人のコメディーを中心に良質のイタリア映画を日本に紹介できればと志は高い。
 黒崎さんは、学生時代にルネサンスの歴史を学ぶ助けになればとイタリア語を勉強。その一環でイタリア映画を見始めて、イタリアの映画学校で学びたいと思うように。しかし、大学卒業後にイタリアに渡ったものの、語学を学んだだけで半年後に父の病気のため帰国。間もなく父が他界した。流通業界に就職し、その後は、映画やイタリアとは無縁の生活を送ってきた。
 60歳で退職。自宅をリフォームし、民泊でもやろうかと準備をしていたとき、この映画と出合った。
 「定年後、そば打ちをやる人が多いと聞くけど、みんな好きなことをやったらいいと思う。知らない世界だからこそ楽しい」と笑顔を見せた。