デジタル化と脱炭素に取り組んだ中西経団連、実行は次期会長に
「財界総理」とも呼ばれる経団連の会長職を、任期途中で辞任する中西宏明氏は、政権との良好な関係を維持すると同時に、出遅れた日本のデジタル化や、気候変動問題への対応を重点課題に設定し、政策提言集団としての経団連の再活性化に尽くしてきた。今後は提言の実現に向けた具体的な施策を打ち出す考えだったが、病には勝てなかった。新型コロナウイルス禍で感染対策と経済の両立という極めて難しいかじ取りが求められる最中の突然の会長交代は、経済界にとって大きな痛手だ。
「経団連会長の職を全うしたい」
病室からオンラインでつないだ令和3年の新春インタビューで、中西氏は強い口調でそう語った。辞任は苦しい判断だったに違いない。リンパ腫の再発で昨年7月に入院した後は、病室からオンラインで会議や記者会見に参加していたが、現在はそれも難しい状況だという。次期会長に決まった住友化学会長の十倉雅和氏も「中西さんの無念な思いに胸が詰まる」と話す。
平成30年に会長に就任した中西氏は、前会長の榊原定征氏が「政権に近すぎる」との批判を受けたこともあり、「政府と経済界は立場が違うこともある。はっきりものを言えばいい」との姿勢を取った。全世代型の社会保障検討会議では政府方針に異論を唱え、その発言が議事録から削除されたこともあった。
だが関係は悪化せず、特に菅義偉政権は中西氏の政策提言能力を積極活用する姿勢で応じた。
中西氏のデジタル化に関する提言は、菅政権のデジタル庁設立につながった。
また菅首相就任直後、中西氏は入院先から首相官邸に赴き、「2050年の温暖化ガス排出実質ゼロ」の目標設定や、革新的な技術開発を経済成長につなげる「グリーン成長」の重要性を直言し、その後の環境政策に影響を与えた。
中西氏は、昨年後半からこれらの課題解決に向け、実行計画策定といった具体化を始めるはずだったが、リンパ腫の再発で計画が大きく狂った。
昭和21年の経団連設立以来、初の女性副会長を誕生させることなど、多くの改革の方向性は中西氏が示した。ただ、デジタル化はハードルが高く、脱炭素に至っては道筋もまだ見えない。中西氏を引き継ぐ十倉経団連は、これらの課題解決に向けた実行計画策定を急ぐ必要がある。(平尾孝)