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5年経っても一向にやまない医療への攻撃

赤十字国際委員会

 ジュネーブ(ICRC)-ちょうど5年前の2016年5月3日、紛争地における医療への攻撃が戦争犯罪であることを強調し、そのような看過できない攻撃に歯止めをかけるべく、国連安全保障理事会が決議第2286号を採択しました。しかしこの5年間、紛争など非常事態にある国々における医療への攻撃は数千件にのぼり、医療スタッフや患者がいまだ多大な犠牲を強いられている事実が、私たち赤十字国際委員会(ICRC)がまとめたデータで浮き彫りになりました。

 医療への攻撃には、殺人やレイプ、肉体的な虐待、略奪、および医療関連の施設や車両の破壊などが含まれます。また、予防接種が予定通り実施できなかったり、救急車が検問所を通過できなかったりと、人々の医療へのアクセスが妨害されれば、それも攻撃とみなします。

 ICRCがデータを集計したところ、2016~20年の間に発生した医療への攻撃は3,780件に上り、年平均で33カ国が被害を受けていることがわかりました。そのうち三分の二はアフリカや中東で発生しています。特に多くの被害を受けた国は、アフガニスタンやコンゴ民主共和国、イスラエル/パレスチナ自治区、シリアです。紛争地域では正確なデータを収集すること自体が困難であるため、実際の被害件数は私たちが把握している数よりも多いと考えられます。

 「世界は優先事項として、傷病者や重篤な患者を守ることができていません。今や世界中の関心が医療に集まっているにもかかわらず、医療スタッフや医療施設を守るための対策は十分に取られていないのです」とICRCのペーター・マウラー総裁は語ります。「悲しいことに、攻撃されればされるほど、医療を心底必要とする人たちの希望を叶えることができなくなっています。武器を使用する側は、国際人道法に定められているように、医療の普遍的な価値と、人々が医療を受ける権利を尊重しなければなりません」。

 2016年5月3日、国連安全保障理事会は、「紛争下の医療従事者及び医療施設の保護に関する決議第2286号」を採択しました。80カ国に支持されたこの決議には、医療への攻撃を減らすために国家が取るべき措置が盛り込まれています。しかし、この決議の採択から5年が経過しているにもかかわらず、国際人道法は無視され、医療妨害や医療提供の犯罪化が相次ぎ、人々の医療へのアクセスは妨げられ続けています。また、決議が提示した対策も十分に実施されていません。

 ICRCは、武力紛争下やその他の緊急事態下で人々が安全に医療を受けられるよう、Health Care in Danger(危機に立つ医療)というキャンペーンを立ち上げています。この事業を統括するマーチェイ・ポルコウスキーは、決議から5年経った今、危機感をあらわにしています。「医療スタッフや患者の保護の観点から言うと、政治的意志の欠落や想像力の欠如が顕著です。各国はこうした問題が解決されるよう、自ら率先して行動し、旗振り役になるべきです」。

コンゴ民主共和国で武装勢力の人たちを対象に国際人道法について話すスタッフ。(C)ICRC

 医療施設に対する暴力を減らすためにきちんと取り組めば、結果が伴うことは立証されています。例えば、ICRCは、南アジアのある国の病院の関係者と協力し、緊急救命室に持ち込まれる銃の数の削減に取り組みました。その成果は目に見えて表れました。病棟に持ち込まれる前に没収した銃の数は、それまで1カ月平均2丁だったのが、5カ月後には42丁にまで増え、医療スタッフや患者へのリスクを減らすことが可能となりました。

 その他の成功例は以下のとおりです。

エルサルバドルーICRCとエルサルバトル赤十字社は、武器によって負傷した人々の応急処置に携わる関係者を一堂に集める機会を設けました。その結果、連携が強化され、医療スタッフのスキルも向上しました。

レバノンーパレスチナ人難民キャンプのアイン・ヘルワは、人口過密で、複数の武装グループが活動しています。ICRCはここで、複数の武装勢力から、医療システムや医療従事者を尊重する、という誓約書に署名してもらいました。文言は、ICRCの雛形をもとに武装勢力側とすり合わせて決め、早速いくつかの良い変化がもたらされました。

 過去一年のコロナ禍で、医療従事者が社会にとっていかに重要であるかを再認識する一方で、新しい形の暴力や誹謗中傷が浮き彫りになりました。こうしたことを受けて、医療そのものや医療スタッフを守ることの重要性がこれまで以上に問われてきました。2020年2月から7月にかけて、新型コロナウイルス感染症関連で医療スタッフや患者、医療インフラが攻撃されたケースは、ICRCが把握するだけで611件に上りました。これは、平均より1.5倍高い数字です。

 一例を挙げると、南米コロンビアの農村の保健所に勤める医師が、治療していたコロナ患者が亡くなった後に武装集団から脅迫を受けました。医師はその地域を離れざるを得なくなり、住民は治療を受けることができなくなりました。

 暴力を用いた攻撃は、医療スタッフにとっても患者にとっても悲劇をもたらします。小児科専門の看護師・フィリッポ・ガッティが南スーダンでICRC医療チームの一員として手術室担当をしていたとき、戦闘員が乱入してきました。その戦闘員は、カラシニコフの銃口を彼の顔に向け、「敵の戦闘員を助けているのかどうか教えろ」と聞いてきました。

 「事態が良い方に向かうことを願い、その戦闘員をドアの前に連れて行き、手術台に乗っている女性を見てもらいました」とガッティは語ります。「そしたら彼は『ここから出ていけ。俺たちはまた戻ってくる。その時まだここにいる奴は皆殺しにする』と言うのです。私たちはすぐ行動に移り、可能な限り人を移動させました。でも、実際彼らが戻ってくると、ベッドから離れることのできなかった患者12人が殺害されてしまいました。こんな悲劇を誰が想像できるでしょうか」。ガッティは続けます。「私たちは人種や出自は一切問わず、また政府側か、反政府側かに関係なく、すべての人々に公平に治療を行っています。でも、この武装グループはそこまで考えが及ばないようでした。いつかは自分たちもそうした医療の恩恵にあずかるかもしれないのに、です」。

 医療への攻撃に関するICRCデータ:医療提供に支障をきたす事件や出来事に関するデータは、2016年1月から2020年12月にかけてICRCのチームが収集したものです。紛争地で活動するICRCが拠点を設けている国のうち、年平均で33カ国において報告がありました。

 当該データは、医療への攻撃すべてを網羅したものではなく、ICRCの活動拠点で把握できたものに限ります。こうしたデータ収集は往々にして非常に困難であることから、今回私たちが提示した数字よりも実際の攻撃や妨害が多いことは想像に難くありません。

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