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人と社会をつなぐ ファンコミュニティ×エンタメの描く未来

 持続可能な世界をめざす「SDGs(持続可能な開発目標)」の達成には、企業やユーザー、行政など立場の異なるステークホルダー(利害関係者)同士がいかに信頼関係を築くかが重要とされている。そんななか、さまざまなステークホルダーが集うオンライン上の「ファンコミュニティ」での投稿を活用した「ユーザージェネレイテッドコンテンツ(ユーザー参加型コンテンツ)」が注目されている。ユーザー一人一人の思いや体験、コミュニティで共感を集めた対話などを映画やラジオドラマといったエンターテインメントとして発信し、社会へ届けることで、新たな対話を生みだす狙いがある。

映画でコラボ 東北と“絆”

 吉本興業ホールディングスのよしもとエリアアクション(東京都新宿区)が東日本大震災から10年を機に今年、東北6県を舞台とする映画「“絆”の映画」を製作した。家族や、地域、友達などとのさまざまな“絆”と、東北の魅力を描く短編映画5本からなるオムニバスだ。同社が平成23年から取り組む地域活性化プロジェクト「地域発信型映画」の一環で、初の試みとして、19の企業や自治体、約2万4千人のユーザーが参加するオンラインコミュニティ「“絆”のコミュニティ」で投稿されたエピソードを取り入れた。

 コミュニティを運営する、ファンコミュニティサイト構築・運営大手のクオン(東京都港区)が企画協力した。コミュニティ内で昨年、「“絆”を感じた瞬間」や「“絆”とは何か」をテーマにエピソードを募り、集まった7150件からとくに共感を集めたものをよしもとエリアアクションへ提供。それぞれの短編映画を担当する監督5人や各自治体や地元住民らからなる実行委員会が話し合って題材を選び、地域の風習や名所、郷土料理などを組み合わせて東北らしい作品に仕上げた。

 山形県南陽市を舞台とする「この町の」(犬童一利監督)では、「地域の“絆”」についてのエピソードなどを題材とした。離婚を機に帰郷した主人公(橋本マナミさん)がおせっかいな近所の人たちにうんざりしながらも、次第にふるさとの温かさや絆の大切さに気付き、癒されるストーリーだ。新型コロナウイルスの影響で主人公や地域の絆がどう変化していくかも描いた。市内各地で撮影し、市民エキストラも多数出演、「来客をラーメンの出前でもてなす」といった地元の習慣なども盛り込んだ。

映画「この町の」撮影風景 吉本興業提供
映画「この町の」撮影風景 吉本興業提供
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 新型コロナウイルス感染拡大により一部作品の製作スケジュールが遅れたが、5本のうち3本は完成し、「島ぜんぶでお~きな祭-第13回沖縄国際映画祭-」で今月17日にお披露目された。ほかの2本と合わせて順次全国上映される予定だ。

 「映画が東北の魅力や身の回りの人との絆について、何か気づくきっかけになればうれしい」。よしもとエリアアクション執行役員であり、同映画のプロデューサーでもある坂本直彦氏(47)はこう話す。「題材になったエピソードをできるだけ忠実にストーリーのなかで描くことにこだわった。コミュニティの人にはエピソードを見つける楽しみもあると思う」と胸を張る。

共感生む オンラインの声

 映画による地域活性化と聞くと、一般的には撮影協力を思い浮かべがちだ。しかし、同社では地域発信型映画を「興行ではなくコミュニケーションツール」と位置付け、地域の住民と実行委員会を立ち上げ、台本作りから一緒に取り組んでいる。監督らプロのクリエイターと地域住民がともに地域の魅力を深掘りしながら作品テーマを決めていく作業はとくに重要で、「お互いの良いところをシェアし合い、目標がぴったり合うと、いい作品が仕上がるし、家族のような強いつながりが生まれる」と坂本氏は話す。

 地域住民とクリエイターの意見に、さらにコミュニティユーザーのエピソードを反映するという初の試み。「ユーザーの体験は具体的で共感できるものが多く、題材とするエピソードを選び出すのがとても難しかった。地域の方も監督も、観客も、きっと似たような体験をしたことがあっても、わざわざそれを映像化しようとはしなかったようなあたりまえの風景。監督や地域の伝えたいこととミクスチャしながら、ストーリーのなかで伝わりやすいように演出にはかなり苦労した」と打ち明ける。

 監督や住民からはコミュニティのコメントを見て「絆は大それた出来事ではなく、当たり前の日常のなかにあると気づかされた」「受け取る側の感度がないと伝わらないものと気づいた」といった声もあがった。「絆を描こうとする作品は多いけれど、絆とは何かを深掘りしてみると意外と難しい。リアルな体験談がテキストベースであることで、描くべきものが共有しやすかった。コミュニティの意見は共感しやすく、地域の人たちとの対話の材料になる」と手ごたえを感じている。

 来年度以降も企画協力を続ける予定で、「コミュニティユーザーの皆さんと、地域の人々や監督とがもっと一緒になって映画を作れるよう、直接オンライン上で対話するなどの方法を考えていきたい」と話している。

青森県で撮影中の「変わらない。変われない。それでも、」製作会議の様子、吉本興業提供
青森県で撮影中の「変わらない。変われない。それでも、」製作会議の様子、吉本興業提供
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笑いの力で地域活性化

 「人を幸せにするのが、お笑い。劇場やテレビだけでなく、笑いの力でみなさんの生活に貢献していける企業でありたい」と、坂本氏。同社では平成23年から、地方自治体のブランディングを助ける地域発信型映画や「47都道府県よしもと住みます芸人」など地域活性化に取り組んできた。地域発信型映画は全国で105本製作。住みます芸人では93組137人が47都道府県に住み、地域発信型映画へ出演したり、芸人ならではのコミュニケーション能力を生かして地方の課題解決に取り組んだりしている。

 地域発信型映画の製作や芸人の活動は、地域住民の間に強いコミュニティを作り出し、新たなビジネスのきっかけにもなっている。愛知県蒲郡市では平成24年に製作した地域発信型映画「ガマゴリ・ネバーアイランド」撮影中の炊き出しうどんに、地元漁師がアサリやワカメを差し入れたことがきっかけとなり、三河湾のアサリを使ったご当地グルメ「ガマゴリうどん」が誕生。同社がPRなどにも協力し、25年の全国ご当地うどんサミットでグランプリ受賞するほどの名物になった。ガマゴリうどんに続けと、通販サイト「Cheeky's store(チーキーズストア)」では、芸人が開発に関わった新名物や、あまり知られていない特産品の販売などもしている。

 坂本氏は地域活性化に取り組んできた10年を振り返り、「吉本と一緒にやりたいと思ってくれる人が増えてきたという実感がある」と話す。自身も地域発信型映画42本を製作するなど、多くの地域と関わってきた。「地方創生のためには最終的には雇用など一過性ではない結果を生み出さなければならない。地方を元気にする面白いビジネスを生み出せるようなコミュニティが、映画や芸人などをきっかけに全国に広がってくれるとうれしい」と語った。

よしもとエリアアクション執行役員の坂本直彦氏
よしもとエリアアクション執行役員の坂本直彦氏
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ラジオドラマもスタート

 プロクリエイターたちの力を借りて広がるオンラインファンコミュニティの共感の輪。クオンでは「“絆”の映画」のように、コミュニティで生まれたユーザー同士の対話、共感の“種”を他のメディアに活用する、ユーザージェネレイテッドコンテンツの展開に力を入れている。

 「世の中はいま互いに無関心な時代になっている。コミュニティを使い、お互いの理解を深め、“絆”を育て、その輪を広げていきたい。コミュニティで起こった対話を社会へ届けることで、さらに、つながっていなかったところ同士をもつなげることができると思う」。同社の「“絆”のコミュニティ」プロジェクトリーダーを務める、コミュニティエクスペリエンスデザイン部1課課長、高橋元気氏(39)はこう話す。同コミュニティはそのための場として昨年1月に立ち上げた。複数の企業や自治体、ユーザーが集まり、企業同士のコラボやユーザー同士の対話などを通じて「“絆”とは何か」を探るファンコミュニティだ。

 顔が見えない匿名空間かつ、思いを同じくするユーザーが集う場ならではの安心感もあり、家族や地域、趣味の話題など日常が垣間見えるエピソードを投稿するユーザーも多い。「“絆”の映画」のためのエピソード募集には当時1万人以上のユーザーが参加し、公開へ向けてコミュニティ内でも期待感が高まっている。「プロのクリエイターや地域の方へ自分の声を届けることができる、何気ない日常のエピソードが映画になる、という驚きや感動をユーザーの皆さんに味わってほしい」と話す。

 今年4月には新たにジャパンエフエムネットワークと協力し、コミュニティ内のエピソードを題材とした5分間ラジオドラマ「“絆”のコミュニティ」(インターFM897、毎週日曜午前9時55分放送)も放送開始した。同社の飯塚基弘社長は「より身近に感じていただけるよう、みなさんの印象に残るストーリー作りにこだわった。ドラマはフィクションだが、いわば、ユーザーのみなさんが原作者。番組は、聴くだけのラジオから参加するラジオという意識が芽生える一つのきっかけになるのでは。コロナ禍でラジオはリスナーとの距離が近い、寄り添うメディアとして再認識されつつあり、リスナーのみなさんにもぜひ一緒に番組を作ってもらいたい」と期待を寄せている。今後コミュニティ内でいつでも楽しめるようにする予定だ。

 当初9の企業・自治体が参加して立ち上げた同コミュニティだが、1年間で19団体にまで拡大した。コミュニティは4月にリニューアルし、エピソードを自由に語り合うコーナーのほか、10年後の未来について語り合うコーナー「みらいテラス」も新たに設けた。「コミュニティが広がることで、つながっていないところがつながり、つながらないと思っていたところがつながる。エンタメや地方創生、SDGs…、たくさんのステークホルダーを巻き込んで、ユーザージェネレイテッドコンテンツを広げ、世の中を良い方向に進めるムーブメントを起こしていきたい」と高橋氏は力を込めた。

「“絆”のコミュニティ」のトップページ
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提供:クオン株式会社

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