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【新章 働き方改革】マツダが示す中小企業のDX「スモール」を強みに変えた慧眼 経済ジャーナリスト・片山修

マツダ防府工場の組み立てライン=2018年5月、山口県防府市
マツダ防府工場の組み立てライン=2018年5月、山口県防府市
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 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、サプライチェーン(供給網)の機能停止などの混乱を引き起こし、製造業にも甚大な被害が出た。それを受けて、経済産業省は2020年5月、サプライチェーンの国内回帰を促す一方で、東南アジア各国での新たなサプライチェーンの確立を促すことを発表した。

 そのカギとなるのがDX(デジタル・トランスフォーメーション)だ。サプライチェーンのDX化はもとより、エンジニアリングチェーンのDX化が必須だ。

 経産省は、20年8月、「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」を立ち上げ、DX推進に向けた取り組みをスタートさせた。

 世界のDX競争に置いてけぼりを食えば、日本のモノづくりはピンチに陥る。というのも、2025年以降、年間12兆円の経済損失が生じかねないという「2025年の崖」が指摘されているのだ。

 つまり、日本の産業を支える自動車メーカーは、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンのすべてをDX化し、開発、市場、工場すべてのデジタル連携を目指す必要がある。

 中でも見逃せないのが電動化、自動化が、クルマの高性能化、複雑化を加速していることだ。自動車産業をめぐる事業環境が大きく変化する中で、自動車メーカーや部品メーカーは、限られた資源で、開発負荷の大幅な増加に対応することが求められている。背景には、「CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)」と呼ばれる100年に1度の大変革がある。

 クルマの開発はこれまで、実機を試作して実験を繰り返してきた。量産型モノづくりの典型である。

 ところが、クルマに求められる機能、性能の要件が変化し、対応すべき領域が拡大するなかで、このやり方を続けると、開発リードタイムは限りなく長くなり、コストは積み上がっていくばかりだ。

実は、この問題の解決策をいち早く見い出したのがマツダである。数理モデルを用いてコンピューター上でシミュレーションし、さまざまな性能を高める「MBD(モデルベース開発)」という手法に取り組んだ。

 マツダは1996年、MBDの先駆けとなる「MDI(マツダデジタルイノベーション)」をスタートした。いわば前史である。このとき、マツダはフォード傘下にあり、経営再建の真っただ中だった。

 実物を作らない、シミュレーションでの技術検証は、資金力も人員も足りないマツダにとっては、文字通り苦肉の策だった。資金力も人員も足りなかったからこそ、マツダはMBDにたどりついたといえる。つまり、年間生産台数150万台の「スモールプレーヤー」であるからこそ、MBDを生み出したのだ。

 マツダのMBDは、経産省内部に発足した「自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会」においても、日本の自動車産業全体の国際競争力強化に寄与していると、高く評価された。

 MBDの利点は、初期工数がかかるのを覚悟の上で、図面精度の向上を徹底的に図ることにより、開発リードタイムを短縮し、これまでのように設計後の検証段階での「手戻り」の非効率が避けられることにある。各階層でモデルを駆使し、設計段階からシミュレーションを行いながら、迅速にフィードバックを行い、確かな設計仕様を完成していく仕組みだ。

 ただし、その際、開発の早い段階から部品メーカーとの間ですり合わせをし、足並みをそろえて開発を進めていく必要がある。となれば、当然のことながら、部品メーカーにも完成車メーカーと同等レベルのDXへの取り組みが求められる。

 問題になるのは、中小部品メーカーでDXへの取り組みが遅れていることだ。中小企業は、資金や人材が不足しているため、DXに消極的だ。

 要するに、自動車サプライチェーンのDX化を進めるには、完成車メーカーと部品メーカーの二人三脚が必須だが、中小部品メーカーがDX化に二の足を踏む限り、困難がともなうわけだ。

 その点、マツダには強みがある。いや、弱みを強みへ転換することに成功したのだ。

マツダ本社=2018年7月、広島県府中町
マツダ本社=2018年7月、広島県府中町
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 マツダには、広島周辺の部品メーカーとの強い結びつきがある。ご存じのように、マツダは1920年に広島市で東洋コルク工業としてスタートして以来、地場の部品メーカーと強い結びつきを築いてきた。

 その上、「ひろしま自動車産学官連携推進会議(ひろ自連)」のバックアップ体制が大きい。常任団体は、ひろしま産学振興機構、マツダ、広島大、経産省中国経済産業局、広島県、広島市だ。つまり、地元が一体となってDX化に取り組んでいるのだ。

 その中で、力を注いでいるのは、DX人材の育成だ。中小企業を対象にしたMBD/CAE(computer-aided engineering、コンピューターを用いてシミュレーションなどをする作業)研修カリキュラムを開発し、研修を実施しているほか、この1月15日には、「ひろ自連」主催のWEBセミナー「DX・第4次産業革命の機会と脅威」を開催している。

 ここで、広島周辺の地場企業の具体的なDXの取り組みを見てみよう。

 東広島市のティア1サプライヤー(1次下請け)のダイキョーニシカワは、クルマの内外装およびエンジン関係樹脂部品の開発から生産までを一貫して手掛ける。

 同社は、2016年にMBD推進部門を発足。ひろ自連の技術面のバックアップや「ひろしまデジタルイノベーションセンター」のCAEソフトやスーパーコンピューターなどの計算機環境を活用するなどして、DX化を進めている。

 具体的な事例として、インストルメントパネル(計器盤)の衝突性能の開発が挙げられる。従来は、インストルメントパネルとその周辺部品だけでCAE解析をしていたが、車体も含めた大規模モデルを作成し、さらには衝突時の速度を想定した材料物性を織り込んでCAE解析をすることにより解析精度を上げ、設計変更ロスを大幅に削減している。現在、MBDのティア2サプライヤーへの展開を計画している。

 さらに、自動車用ドアと排気系部品の設計から量産を手掛ける広島市のヒロテックは、MBDの導入によって、開発型部品メーカーへの転換を果たした。

 完成車メーカーだけで行ってきた機能設計に、パートナーとして参画する技術を身に着けた結果、排気系部品のモデルを車両モデルに組み込み、クルマ全体の燃費性能を予測し改善案を考えるなど、システム全体を俯瞰(ふかん)した高度な技術提案企業に変身した。

 指摘したいのは、部品サプライヤーにとってもDX化は大きな成長の機会だということである。日本の中小部品メーカーの中には、まだまだDX化の取り組みに躊躇(ちゅうちょ)しているところが少なくない。しかし、ダイキョーニシカワやヒロテックの事例に見られるように、DX化は大きな飛躍の機会であるとともに、それによって国内外の受注を拡大する絶好のチャンスでもある。

 意識しなければいけないのは中国の部品メーカーである。とりわけ、中国におけるサプライチェーンのDX化には目覚ましいものがあり、国内の部品メーカーは中国の部品メーカーの動きに戦々恐々としている。その動きについていけないと中国市場で生き残れないので、国内メーカーも必死だ。

 トヨタはもともと、中国におけるサプライチェーンのDX化を図ってきた。トヨタの中国市場向けの自動車開発拠点であるトヨタ自動車研究開発センター(TMEC)は、試作車開発に向けた調達業務の管理をインターネット上で行う仕組みを開発し、すでに運用を開始している。

北京国際モーターショーのトヨタのブース(奥)=2020年9月26日、中国(共同)
北京国際モーターショーのトヨタのブース(奥)=2020年9月26日、中国(共同)
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 「CASE」による自動車環境を取り巻く変化は待ったなしだ。また、新型コロナウイルスの世界的拡大も、製造業のサプライチェーンに深刻な影響を与えている。

 これをチャンスととらえ、自動車サプライチェーンのDX化を進めることができるかどうか。DX化によって新たなモノづくりの在り方を構築し、飛躍のステップにすることができるどうか。それは、自動車産業をより強くするための試金石と言っていいだろう。

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