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鹿島が教材を開発した理由 高校生の探究をサポートする「100年を創造するチカラ」

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 受験シーズンが本番を迎え、「大学入学共通テスト」が初めて実施されるなど教育改革が始動している。昨年から新学習指導要領への移行が進み、小・中学校がプログラミング教育に取り組むほか、高校は「総合的な探究の時間」の授業がスタート。主体的な学びで思考力や判断力、人間性を養う狙いだが、カリキュラム運用を担う教育現場は教材など手探り状態が続く。2022年度に全面実施を控えるなか、建設大手の鹿島が探究型教材「100年を創造するチカラ」を開発。昨年から無償提供を開始し、東京駅丸の内駅舎の保存・復原などリアルなプロジェクトを題材にした内容が話題を呼んでいる。鹿島が次世代教育に乗り出した理由を探る。

プロジェクトのリアリティー

 「自分たちのまちが魅力的であるために大切なことを考え、イメージマップをつくってみよう」。都立千早高校(東京都豊島区)の教室で、教師が呼び掛けると、生徒たちは手元のワークブックに「芸術の町」「商店街」「自然」など次々と書き出した。まちに関連する言葉を線でつなぎ、増やす思考ツールを活用した「探究」の授業の一コマだ。

探究の授業風景。生徒たちが主体的に、対話する深い学びを後押しする授業が求められる
探究の授業風景。生徒たちが主体的に、対話する深い学びを後押しする授業が求められる
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 生徒の筆が止まると、教師が続けて「100年先も魅力的であるためには」「実際はどのようなことを大切にしたのだろう」と問いかけ、鹿島が中心となって実施した「女川まちづくりプロジェクト」の映像を紹介。東日本大震災で約9割の住宅を失った宮城県女川町の復興工事で、高齢者や子どもに配慮して駅や町役場、小学校、地域医療センターを中心部に集めた経緯を説明する。約5分の映像を見終え、生徒に高齢者や子育て世代などの立場を想像して書き足すよう促すと、「交通の利便性」「福祉施設」など新たな視点が加わった。

ワークブックに書かれたイメージマップ。テーマを中心に関連する言葉をつなぐことで、アイデアが広がっていく
ワークブックに書かれたイメージマップ。テーマを中心に関連する言葉をつなぐことで、アイデアが広がっていく
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 女子生徒の一人は「イメージマップを使うと、ほかの人の意見を聞いた感覚になる。別の角度から見たら、どう考えるかが分かった」と声を弾ませる。

 この教材を開発したのが鹿島だ。教育コンサルティング会社のキャリアリンクとともに、実際のプロジェクト映像の提供から生徒用ワークブック、授業の手順を示す教師用ガイド、授業用のスライドの制作まで一貫して手掛け、高校生の「探究」をサポートしている。提供初年の20年度は全国16校約2800人が活用し、生徒のみならず、教師からも「実際のプロジェクトが題材なのでリアリティーがあるし、現実の”解”を学べる」と高評価を得た。広報室社外広報・CSRグループの伊藤括司課長は「鹿島が培ってきた施工実績や映像などの資産をうまく活用できた」と手応えを語る。

広報室社外広報・CSRグループの伊藤括司課長
広報室社外広報・CSRグループの伊藤括司課長
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担い手不足への危機感

 鹿島は防災や災害復旧、環境保全などと並び「次世代教育」を社会貢献活動の柱の一つと位置付け、積極的に取り組んできた。17年からはそれまで工事事務所が個別に行ってきた現場見学会を、小・中学生と保護者を対象にする「サマースクール」として夏休みに全国一斉で開催。重機の操作や測量など、建設作業を体験できる充実した内容が人気で、19年は全国19カ所計417人が参加し、旅行ガイド誌に取り上げられるなど成果を上げている。

鹿島のサマースクールは重機の操作などを体験できる充実した内容で人気に
鹿島のサマースクールは重機の操作などを体験できる充実した内容で人気に
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 背景には担い手不足への強い危機感がある。国土交通省によると、17年の建設業就業者は55歳以上が34.1%を占め、全産業平均(29.7%)を上回る。一方で、29歳以下は11.0%にとどまり、全産業(16.1%)に比べて将来を担う若手不足が浮き彫りになっている。現場見学会は建設業への理解や興味につながるため、将来の担い手育成の入り口としての期待もある。このため当初はキャリアへの意識が高まる高校生の参加を期待していたが、受験勉強や部活などが忙しく応募はわずか。「担い手予備軍になり得る高校生に訴求するコンテンツを考える必要があった」(伊藤氏)

 着目したのがグループ内に眠る豊富な映像資産だ。鹿島は1963年設立の産業映像制作会社を原点とするKプロビジョンを傘下に抱え、日本初の超高層ビル「霞が関ビルディング」(東京都千代田区)の工事風景など歴史的な価値のある映像を蓄積してきた。テレビ番組などでも紹介されて大きな反響があるなかで、教材探しに苦慮する教師に映像の活用を提案したことが開発のきっかけになった。

 伊藤氏は「キャリアリンクを通じて現場の教師の悩みを聞き、授業で使えないかと提案したら、探究の時間にぴったりと反応が良かった」と振り返る。新学習指導要領は知識や技能の習得のみならず、思考力や学びに向かう力などの養成を目指し、従来の「総合的な学習の時間」を「探究」に衣替え。より主体的で、対話的な深い学びを求めているが、教科書のないカリキュラム運用の経験が少ない教育現場には戸惑いが残る。

西日本のプロジェクト追加や工業高校への展開も

 これに対し、鹿島は教材会社の協力や教師からのヒアリングをもとに、高校生の探究心を刺激するプロジェクトを選定。まちづくりのほか、東京駅丸の内駅舎の保存・復原の「伝統継承」、羽田空港D滑走路建設の「かかわり・共生」という3つのテーマで、ワークを取り入れたアクティブ・ラーニング型で、各2時間の教材に仕上げている。特に映像教材は、日常的に動画を視聴する高校生向けにアレンジした。

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 基礎編では各プロジェクトを参考に情報の収集から課題設定、まとめ・表現までを学び、実践編は生徒一人ひとりが自らのテーマや題材を選び、論文形式にまとめるステップをワークシートでサポートする。例えば、東京駅丸の内駅舎保存・復原プロジェクトを題材に「伝統継承」に対する理解を深めたうえで、地場産業をどう後世に残すかを考える生徒もいたという。

鹿島らが保存・復原工事を行った東京駅丸の内駅舎
鹿島らが保存・復原工事を行った東京駅丸の内駅舎
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 一方、教師用ガイドは基礎編の授業の時間の割り振りや、実践編の生徒への支援のポイントなどを詳細に解説している。広報室社外広報・CSRグループ長の町田裕氏は「サマースクールなど現場で開催するイベントでは、参加人数に限界があるが、学校の授業で活用してもらえれば建設業や鹿島のプロジェクトを知り、理解してもらえる」と期待を示す。

広報室社外広報・CSRグループの町田裕グループ長
広報室社外広報・CSRグループの町田裕グループ長
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 今年度は新型コロナウイルスの影響で、無償提供は一部の高校にとどまったが、鹿島は教師向けのオンライン説明会などを開き21年度から普及を本格化し、早期に生徒1万人の活用を目指す。このため西日本の高校生にも身近なプロジェクトを取り上げた教材の拡充や、普通高校に加えて工業高校などへの展開も視野に入れる。町田氏は「すぐに効果が出るとは言い切れないが、次世代教育は続けることが重要だ。将来的に、この教材で学び建設業を志す生徒が増えればうれしい」と将来を見据えた。

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鹿島建設「100年を創造するチカラ」の詳細はこちら

提供:鹿島建設株式会社

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