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パートナーシップでめざす持続可能な世界 コロナ禍のいまこそSDGsを 平本督太郎センター長

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で社会が激変し、あらゆる物事の持続可能性が問われるなか、企業には変化に強いサステナブル経営が求められている。これからの日本が世界とともにSDGs(持続可能な開発目標)を達成していくために、企業にはどのような取り組みが必要か。日本の企業の現状と課題について、SDGsビジネスの第一人者である金沢工業大学SDGs推進センター長の平本督太郎准教授に話を聞いた。

SDGs推進センター長の平本督太郎准教授
SDGs推進センター長の平本督太郎准教授
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 SDGsは、MDGs(ミレニアム開発目標)の後継として2015年に国連サミットで採択された、持続可能な世界に変えるための国際社会の共通目標だ。策定プロセスにはオンラインも含めると世界中から1千万人以上が参加しており2016年以降さまざまな国や企業が活動に取り組んでいる。平本氏は社会課題解決型ビジネスを長年研究しており、MDGsの時代から、日本政府・国連機関・企業とともに官民連携政策の立案・推進に関わってきた。現在はSDGs推進センター長として、さまざまな自治体や企業と連携しながら、ビジネス、地域経営、教育の3分野で日本国内のSDGsへ向けた取り組みを支援している。

-日本におけるSDGs関連の取り組みや広がりについて、世界と比較してどのように感じられていますか。

 少子高齢化により日本市場が徐々に縮小してしまう状況で、海外の動向はこれまで以上に企業にとって重要な要素になってきています。世界と足並みをそろえるにはどうすればいいのかということを本気で考えるべきです。日本も考えを発信して、リードして、ルールを作る立場にならなければ、世界で作られたルールに追い込まれて企業も苦しい状況で取り組むという、今の状況から脱することはできません。

 日本がそもそも持っている持続可能性を含んだライフスタイルや文化については、世界でも高く評価されています。積極的に発信することで、世界の持続可能性向上にも貢献できると思います。

平本督太郎SDGs推進センター長
平本督太郎SDGs推進センター長
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 2015年9月に国連サミットでSDGsが採択されてからの日本での5年間は、啓発活動が主でした。おかげでメディアの露出量は圧倒的に増えたと思います。MDGsのときには、「途上国支援」のイメージが強く、特定の層にしか広まりませんでしたが、今は小学生でも知っていて、70~80代の方と小学生が課題解決について会話する場面も生まれています。世代共通の話題になってきた、と感じますね。

 一方で、本質の話、社会をどう変えるか、という議論があまり進んでいないのが残念です。これはMDGsに関わっていた人はみな感じている課題で、世界では15年かけてようやく社会変革のポイント、課題解決のための本質が見えてきたにも関わらず、日本ではその議論が引き継がれていません。今後はMDGsで得た知見を国内でどう活かしていくかを考え、議論を深めるべきです。

 SDGsを前に進めるには、2つの進め方があります。皆が概念を理解し、参加し、皆で地域社会を一歩ずつ変えていくという取り組みと、実際に社会システムを変え、継続性の高いビジネスモデルにする取り組みです。両方を進める必要があり、これからは「行動の10年」としてステージが大きく変わると思っています。

国連ビル本部。世界ではSDGs達成へ向けた取り組みが進んでいる
国連ビル本部。世界ではSDGs達成へ向けた取り組みが進んでいる
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-具体的な取り組みの議論を深めていくには、企業のリーダーや自営業者などステークホルダーの理解や認知の深まりと実践が求められますが、現状はいかがでしょうか。

 日本では、いまだに社会貢献活動、CSRの流れの延長としてとらえている方がまだまだ多い。実際に取り組み自体も、本業とは関係が薄いと認識されがちな、たとえばCSR担当部署がSDGsを担当しているという会社も、大企業では非常に多い。実は今回の新型コロナウイルスによる業績不振で「SDGsやめます」「縮小します」という企業が結構ありました。ビジネスに本当に必要だと思ってはいない、本業と結びついていないのでそういう行動に出るのだと思います。本気でSDGsに取り組んでいたところと、そうでなかったところがコロナによってはっきりと色分けされたと感じました。

 SDGsに熱心な企業は、コロナ禍という大きな変化に対して、取り組みによって強靭(きようじん)性や柔軟性が発揮できたと実感されていました。SDGsに取り組むことで、「自分たちが社会へ提供する価値は何か」を従業員一人一人が考えることができ、団結できた。こうした企業は増えてはいるが、まだごくわずかです。今後日本として、本気でSDGsをビジネスに必要だと信じて活動する企業やコミュニティを育てていけるかどうかというのは、大事なポイントです。

 平本氏は昨年9月、これまで「ジャパンSDGsアワード」受賞した51組織のうち「ジャパンSDGsアワードアルムナイネットワーク」に所属する37組織を対象にコロナ禍の取り組みについてのアンケートを実施(回答数25)。アンケートでは、92%が「良い変化と悪い変化の両方があった」と回答。すべての回答者が「新型コロナ収束後も別のパンデミックの可能性を組織の経営運営に盛り込む必要がある」と答えており、中長期的な視野に立ち、新型コロナを機に起こる世界の変化に注目して自組織の変革にも積極的に取り組んでいることが明らかになった。SDGsに取り組んでいたことで「ネットワークが役立った」「変化に冷静に対応できた」「コロナ禍でパンデミック、防災対策の観点から新たな事業が生まれた」という声もあった。
金沢工業大学ホームページ

 SDGsの本質は、「バックキャスティング」という考え方です。自分たちが2030年にどうありたいのか、ありたい未来をちゃんと俯瞰(ふかん)して考えなければいけません。今月の利益や今年度の目標達成など、目先の視点で物事を考えてしまいがちですが、それでは不十分です。最初に自分やあなた、みんなが幸せに暮らす社会という理想の未来を描いていくことが必要です。それが明らかになってはじめて、何をすればいいのかという具体的な議論が前に進んでいきます。もちろん、自分の企業だけでは解決できないものがたくさん出てくる。そこで必要になってくるのが、(SDGsの17番にもある)「パートナーシップ」です。

-17番の「パートナーシップで目標を達成しよう」は少しわかりにくいですが、SDGsのなかでどのようなものでしょうか。そのために必要な取り組みとは何でしょうか。

 パートナーシップは、MDGsの時代から重視されていて、2030アジェンダの前文にも「すべての国及びすべてのステークホルダーは、協同的なパートナーシップの下、この計画を実行する」と掲げられています。国境を越えた問題に対応するには、世界や企業の枠を超えて協力する必要があります。17番以外の16個のゴールにおいても、「パートナーシップ」は前提にあり、すべての目標の中核軸と言えます。

 別の言い方をすれば、SDGsが世界共通の目標を掲げている意味はまさに、このパートナーシップを進めるためとも言えます。議論の土台があることで、二項対立だった存在を第三者も含めた「対話」に導くことができる。新たなパートナーを加えて「対話」を繰り返していくことで、世界を変革するための新しい道を創り出すことができます。

 一部の企業だけが頑張っても世界は変わりません。すべてのステークホルダーに、「これまでどういうところが悪かったけれど、今後はこのように変化します」と宣言をして、対話をしながら着実に変化していくことを求めているわけです。

 企業もSDGsについてわからないこともたくさんある。間違うこともある。軌道修正しながら進まなければいけないわけです。そのために、対話が必要なんです。企業と社会との対話を繰り返すことで、企業自体も変わるし、影響を受けた人々のライフスタイルや考え方も発展していく。そのようにして世界全体が持続可能になっていく。対話は重要なポイントで、企業も逃げずに向き合っていただきたい。今でこそSDGs先進企業とされているユニリーバやネスレなども、批判された時代もありました。まじめに対話をしながら変化し続けたからこそ、いま世界で高く評価されているんです。

-オンライン上でファンと企業が相互に交流する「ファンコミュニティ」は、企業と社会との対話の場の一つになりえるでしょうか

 ファンコミュニティは、企業にとってはSDGsに取り組み、その内容を消費者に直接語り掛けられる場として、消費者にとっては企業との対話を通じてどういった企業と付き合うべきかを考えることができる場として、それぞれに非常に良い機会を提供してくれると思います。

 これまでの企業のコミュニケーションは、大量生産大量消費を前提としていて、基本的には大多数の人を想定した一方的なものでした。しかし、人口が減ってきているなかでは、同じ手法は取れない。お客様一人一人の顔を見て、その人が本当に幸せになるには企業が何をできるかを考え抜いてサービスを提供する。できたサービスに共感が集まり、売り上げや利益につながるというやり方にコミュニケーションが変わってきたのだと思います。

 SDGsの実践においても、対話の中で理想の未来を描く際にはお互いの顔が見えることが重要で、ファンコミュニティはそういった関係作りができる場だと思います。環境や社会面で「こうしてほしい」というような声に対して、企業からも「こうできる」というリアクションがしっかりと返ってくるといいですね。投資対効果という観点からそぎ落とされていた部分に価値がある、ということを企業も消費者から学び、その学びを企業活動に反映する中で、変化した活動が正しい変化なのかどうかを消費者に直接確認できる、こういったやり取りがすごく重要です。

クオンの「ファンコミュニティ」でのコミュニケーション循環イメージ。企業、従業員と生活者が対話を通じて互いに理解を深めていく
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-ファンコミュニティ構築・運営大手のクオンでは、14の企業や自治体が参加する「“絆”のコミュニティ」を運営していて、仙台市後援のファンコミュニティも参加しています。“絆”のコミュニティでは、ユーザー同士が“絆”をテーマに自由に語り合い、多くの共感を集めた投稿を基に映画を製作するプロジェクトや、企業同士や企業と地域とのコラボレーションのアイデアを集めるプロジェクトなどを進めています。

 SDGsには「地域社会」という視点はとても重要です。“絆”のコミュニティという形で企業間だけでなく、仙台市という「地域」も含めてつながりを持てるということは非常に良いですね。地域という視点を持つことで、製品サービスをブラッシュアップするためのファンコミュニティで終わることなく、SDGsの達成をめざした変化を繰り返すことができるんじゃないかと思います。

 とくに期待したいのは、企業も地域コミュニティも、自分たちが何を望んでいるのかを理解できるように成長を促していくこと。それが社会変革の第一歩ですね。今は漠然とした不安をみなさん抱えている。この状況を大きく一変していくためには、「自分たちでも希望を持てるんだ」「夢を描いてもいいんだ」と思えるような変化が最初にないといけません。お互いに幸せなことについて顔色をうかがわずに話し合えるような環境をコミュニティのなかで作っていくことができれば、大きな変化を起こしていけると思います。幸福感は人々のパフォーマンスを高めます。ぜひそんな変化を起こすしかけを作ってほしいですね。

 とくに若者の参加を加速するような取り組みが加わるとさらに良いですね。社会変革の核となるのは、若者です。既存の社会の枠組みにとらわれていないため、「変化の可能性」を持っています。若者と大人が、「今の社会のこの部分に違和感がある」「本当はこういう社会がいいよね」と理想について「きれいごと」だと片付けてしまわずに素直に発言し合える環境では、変化を起こしやすいと思いますね。

クオンの「“絆”のコミュニティ」トップページ
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-最後に、日本におけるSDGsにとって、2021年はどのような年になることを期待されますか。これから取り組もうという企業や個人へメッセージをお願いします。

 今年は私たちが新しい社会や、行動に対して踏み出していけるかどうかの分かれ目だと思っています。まさに今、コロナ以前の社会に戻るのか、新しく変革を起こして前へ進むのか、一人一人が決断をしなくてはいけない。やはり前へ進んだ方が当然良いわけです。変革を恐れずに楽しんでほしい。楽しめない状況に置かれている方へは優しく手を差し伸べて、みんなで楽しむという輪を広げていけるといいですね。そうすることで不安が解消され、前に進む活力がさらにみなぎっていくことでしょう。

【平本 督太郎】ひらもと・とくたろう

金沢工業大学情報フロンティア学部准教授、SDGs推進センター長。

メディアデザイン博士(慶應義塾大学)。野村総合研究所で経営コンサルタントとして、MDGsの達成に向けた途上国などの社会課題解決型ビジネス支援に携わる。2016年から金沢工業大学で教鞭を取りつつ政策立案支援などを行う。金沢工業大学や会宝産業(金沢市)の「ジャパンSDGsアワード」受賞にも貢献した。

提供:クオン株式会社

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