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鹿島が目指す水素社会の未来 「地産地消」が実現するクリーンで強靭なまちづくり

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 水素を生活や産業などあらゆる分野のエネルギー源として活用する「水素社会」構築への機運が高まっている。菅義偉首相が2050年の温室効果ガス排出「実質ゼロ」を宣言し、政府は再生可能エネルギーの主力電源化を加速。エネルギーの安定供給が課題になるなか、クリーンかつ再生可能エネルギーから生産可能な水素の活用拡大に期待は大きい。都市部を中心に水素ステーションなど環境整備が進むが、建設業大手の鹿島は地域性を生かした「地産地消」のモデルづくりに取り組み、注目を集めている。鹿島が描く水素社会の未来を探った。

乳牛1頭のふん尿がFCVを1台走らせる

 日本有数の農業地帯として知られる広大な十勝平野を一望する北海道鹿追町。「天空の湖」と呼ばれる然別湖など自然のあふれるこの町で、水素業界の関係者が熱視線を送る先進的な実証事業が進んでいる。乳牛など家畜のふん尿を原料にして水素をつくる世界初の取り組み「しかおい水素ファーム」だ。

 2015年から始まった実証(※)は、町内の酪農家から集めたふん尿を基にバイオガスを生成する既設の環境保全センターを活用。敷地内に精製設備や製造装置を新設し、バイオガスから分離膜でメタンガスを精製し、水蒸気と反応させ水素を発生させている。

※環境省地域連携・低炭素水素技術実証事業「家畜ふん尿由来水素を活用した水素サプライチェーン実証事業」。鹿島はエア・ウォーター株式会社、日鉄パイプライン&エンジニアリング株式会社、日本エアープロダクツ株式会社と共同で実施。

 センターには水素ステーションや発電・給湯用の燃料電池も導入し、燃料電池自動車(FCV)、燃料電池フォークリフト、チョウザメの飼育施設で利用する。町内で原料のふん尿から水素を製造しエネルギーとして消費するサプライチェーンの構築が可能で、乳牛1頭の1年間のふん尿からつくった水素でFCVを約1万キロ走らせられるという。(※)

※自家用車の年間平均距離約1万キロメートルと想定。1年で牛が出すふん尿23トンで製造できる水素80キログラムとし、1キログラムあたりの平均燃費120キロメートルで試算。

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 実証はガス大手エア・ウォーターが主に製造過程を担う一方、鹿島が利用プロセスを統括した。環境本部プロジェクト開発グループ長の八村幸一氏は「鹿追町の特徴である(家畜ふん尿の)バイオガスプラントを活用した実証を行うことで、周辺の酪農が盛んな地域に水平展開できる」と期待を示す。

環境本部 プロジェクト開発グループの八村幸一氏
環境本部 プロジェクト開発グループの八村幸一氏
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貯蔵・運搬で需要先を拡大

 鹿追町では、これまで酪農家が個別に発酵施設を設置するなか、町が事業者としてふん尿を収集運搬し、センターで集中して処理することで効率的かつ円滑な運営を行うことに成功した。これにより、他の市町村においても鹿追町と同様のメタン発酵施設導入計画が多数進められはじめたが、その後道内の再エネ事業の拡大に伴い送配電網の容量の制約が生じ、新規のメタン発酵施設の新設・FIT(固定価格買い取り制度)売電事業が中断しているのが現状だ。

 その解決策が水素だ。バイオガスを水素に変換することで、圧縮や液化、水素吸蔵合金などにより運搬・貯蔵が可能になり、利用拡大が期待できる。しかおい水素ファームでは今年4月にスタートした2年間の追加実証で、30キロ以上離れた「おびひろ動物園」(帯広市)の電力源として水素を供給する方法を検証。鹿島は、環境省「京浜臨海部での燃料電池フォークリフト導入実証」の協力を得て簡易型水素充填車を導入し、運搬に利用する。さらに、水素を体積の1000倍も貯蔵できる特殊な水素吸蔵合金タンクで省スペースかつ安全な保管を実現し、平常時の動物舎などの電力に加え、停電時の非常用電源にも利用できる。

水素利用設備と簡易型水素充填車
水素利用設備と簡易型水素充填車
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 おびひろ動物園の実証を担当する大野直氏は「水素の運搬・貯蔵技術の確立は需要先を広げることができるうえ、災害時の避難場所などに備えることで地域の強靭(きょうじん)化にもつながる」と力を込めた。

 鹿島が水素事業に取り組む背景にはプラント建設の実績に加え、メタン発酵分野のノウハウがある。生ごみなどの廃棄物からバイオガスを回収する「メタクレス」という独自技術を1991年に商品化。例えば、「黒霧島」などの焼酎が有名な霧島酒造(宮崎県都城市)の工場で、焼酎かすや芋くずをメタクレスで発酵し、バイオガスを回収して発電などに利用している。近年は他の企業とも連携し、技術の展開先の一つに水素製造を加えることで事業の幅を広げることも検討している。

スマートシティのインフラ

 菅首相が2050年の排出「実質ゼロ」を表明するなか、水素活用の重要性は高まっている。一方で、普及へのハードルは依然として高い。

最大の課題が価格競争力だ。政府が17年に策定した「水素基本戦略」は水素社会の実現に向け、調達・供給コストの低減が不可欠としたうえで、30年に1立方メートル(0度、1気圧の標準状態)あたり30円に下げる目標を掲げた。現状の水素ステーションは100円程度とされ、達成の道のりは遠い。

 これに対し、鹿島は地産地消モデルの輸送コストの低さや安定供給の利点を強調する。中東の再エネや豪州の石炭など安価な資源で水素をつくって輸入する動きがあるが、「地産地消は運搬コストを大幅に削減できるので、末端価格なら勝負になる」(同)。実用化段階では、しかおい水素ファーム実証の5倍に相当する2000頭規模への拡大を視野に入れ、供給コストの引き下げも目指している。

 鹿追町は灯油、プロパンガスなど輸入資源に依存するエネルギー供給体制への不安もあり、住民には「地元でつくる水素を使いたい」という声もある。大野氏は「(18年に)胆振東部地震で停電を経験し、人の命や酪農の持続性に直結するエネルギーの自立・安定供給への意識が高い」と地産地消の優位点を指摘する。

環境本部 プロジェクト開発グループの大野直氏
環境本部 プロジェクト開発グループの大野直氏
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 また、燃料電池による発電では、水素(H2)は酸素(O2)と化学反応することで発電し、排出するのは水(H2O)のみ。CO2の排出はないが、水素や運搬の過程で化石燃料を使うと「ゼロ」ではなくなる。しかおい水素ファームにおける試算でもCO2削減効果は50~60%と試算されるが、「再エネの電力で製造し、運搬にFCトラックを使うことで80%以上に引き上げることが可能」(八村氏)とする。

 地球温暖化対策やエネルギー安全保障の「切り札」と位置付けられる水素。従来のFCVや燃料電池の燃料に加え、再エネの普及で供給の不安定を解消する需給調整の機能にも脚光が当たるなか、国内外で建設が進むスマートシティのインフラとしても導入が広がる。鹿島と鹿追町は10月、バイオガスのエネルギー活用を起点とした「地域スマートソサエティ構想」に着手した。災害に強いまちづくりを軸に、地域に適したエネルギーやあらゆるものがインターネットにつながる「IoT」、インフラ開発、産業振興などを盛り込んだ構想の実現を目指す。鹿島はこれまで羽田など都市部のスマートシティの構築を進めてきたが、地方での取り組みは初めて。

 この鹿追町での構想をベースに、25~30年には地産地消モデルをいくつかの自治体に展開する方針だ。八村氏は「建設業が持つステークホルダー(利害関係者)との調整能力や最適サプライチェーンを構想するノウハウを生かし、水素社会を実現するまちづくりに携わっていきたい」と先を見据えた。

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提供:鹿島建設株式会社

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