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建設現場にもリモートの波 鹿島は3Dモデルで効率管理 様々な分野での活用に期待

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 テレワークやテレビ会議などリモート(遠隔)の働き方が普及するなか、建設業界にも新たな波が起こっている。業界大手の鹿島は資機材や作業員の位置など現場の状況をデジタル空間上に再現し、工事事務所や本社・支店から効率的に工事の稼働状況を管理するシステム「K-Field」を開発。深刻な人手不足が懸念される建設現場での移動など労力を減らして生産性を引き上げるほか、今後は病院や工場、商業施設の運営管理など活用範囲の拡大を目指す。

管理の半分を遠隔に

 横浜駅の人混みを抜け歩いて約6分。オフィスビルの並ぶ落ち着いたエリアにある約9300平方メートルの広大な敷地で、重機や作業員がひっきりなしに稼働し、運搬車両が出入りしていた。2022年春の開業を目指し、着々と建設が進む高層ビル「横濱ゲートタワープロジェクト」(横浜市)だ。

 鹿島が開発・設計・施工を担うこの現場を管理する事務所には大型モニターが並び、リアルタイムの作業映像の表示に加え、現場全体の資機材の位置情報が3D画像として映されていた。伊藤仁常務執行役員は「品質・安全など目視や立ち合いが必要な管理以外を遠隔管理に置き換える事により、社員はコア業務に集中することが出来る」と説明する。

横濱ゲートタワープロジェクトのスマート事務所
横濱ゲートタワープロジェクトのスマート事務所
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 このシステム「K-Field」は、資機材一つ一つに取り付けた小型で安価な「ビーコン(発信機)」から出る無線信号を、現場内に約20メートル間隔で設置した受信機が補足して位置情報を把握。地上21階地下1階の各フロアに10~15個の受信機を置くだけで、一般的な衛星測位システムでは把握が難しい屋内の位置データをクラウド上に3D画像で再現し、刻々と変化する現場の状況の「見える化」を目指している。

 画像には位置情報のほか、フォークリフトなど重機の稼働率分析の結果や、作業員の移動履歴が分かる「過去位置再生」などのデータも表示できる。稼働率の低い余剰機材の削減や、作業員の滞留を回避する計画の立案などの効果が見込まれる。

「K-Field」は屋内にいる作業員と資機材の位置や動きを画面上で確認できる
「K-Field」は屋内にいる作業員と資機材の位置や動きを画面上で確認できる
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 鹿島は昨年10月に開業した自社開発のオフィスビル「名古屋伏見Kスクエア」(名古屋市)を皮切りに導入をスタートし、これまで9現場で採用した。開発当初は平面表示だったが、3D表示に改良し、滞留人数の多寡などを色の濃淡で表す「ヒートマップ」の機能も追加、高層ビルの複数階の状況も一目で分かるより直感的なシステムに進化させている。

 最新のシステムを導入した結果、従来は現場の管理業務のうち2割程度とみられていた遠隔管理の比率が、横濱ゲートタワープロジェクトでは倍増したという。伊藤氏は「社員は計画や品質の管理など知的労働に集中でき、(労働時間の短縮で)働き方改革にもつながる」と期待を示す。

伊藤仁常務執行役員
伊藤仁常務執行役員
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スマート生産ビジョン

 システム開発の背景には、建設業の就業者不足への懸念がある。国土交通省によると、17年の建設業就業者は55歳以上が34.1%を占め、全産業平均(29.7%)を上回った。一方で、29歳以下は11.0%にとどまり、全産業(16.1%)に比べて将来を担う若手の人材不足が深刻だ。ITの普及など産業構造の変化に加え、肉体労働や高所作業などのイメージが依然として残っていることが影響しているとみられる。

 さらに、昨年4月に施行した働き方改革関連法は、時間外労働(残業)の上限規制を盛り込んだ。建設業には5年間の猶予期間が設けられたが、業務の効率化や人材確保が大きな課題になっている。

 このための施策の一つとして鹿島は18年に、建設工事の生産プロセスを変革する「鹿島スマート生産ビジョン」を策定。24年度までに生産性の3割向上を目指し、作業、生産プロセス、管理の各分野で新たな技術やツールの適用や実証を進めている。

重量のある押出成形セメント板の位置を決め・取付けをサポート
重量のある押出成形セメント板の位置を決め・取付けをサポート
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 まず、「作業の半分はロボットと」を掲げ、苦汁作業や高所作業などの機械化を進め、作業員は高い精度の求められる仕事に集中。「全てのプロセスはデジタルに」では、主な資機材にIDを付与し、工事のスピードと質を高め、出来高管理や請求業務など事務作業の効率化にも取り組んでいる。そして「管理の半分は遠隔で」は遠隔技術の導入を推進し、「K-Field」など革新的なシステムを生み出している。

濃厚接触者の特定に向けて

 この先駆的な取り組みに、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に他業界からも注目を集めている。鹿島は7月末に医療関係者向けに開いたウェブセミナーで、病院の新型コロナ対策としての活用方法を提案。医療機器や患者の位置情報の把握に加え、過去位置再生で感染者の移動履歴を遡(さかのぼ)ることで濃厚接触者の特定などにも生かすことができそうだ。

 さらに、ヒートマップを利用して院内の「密」の状態がないかどうかを確認したり、脈拍や体温などを検知するバイタルセンサーをビーコンと組み合わせ、患者の体調をリアルタイムで検知したりすることも可能になる見込みだ。

「K-Field」は過去の移動経路を表示できるので医療機器やスタッフの業務改善のほか、新型コロナ感染者の行動把握や濃厚接触者の特定も可能になる見込み
「K-Field」は過去の移動経路を表示できるので医療機器やスタッフの業務改善のほか、新型コロナ感染者の行動把握や濃厚接触者の特定も可能になる見込み
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 これまで病院など医療機関は診療科別や患者ごとの管理が中心だったが、「K-Field」は院内全体を一括で把握できる。

 システム開発に携わった同社ITソリューション部の天沼徹太郎氏は、「建設会社のノウハウがあったからこそ、つくることができたシステム」と語る。また、現場への展開を進める東京建築支店の川島慎吾課長は、「施工という枠を超え、病院や工場、商業施設などの運営管理に新しい手法を提供できる」と強調する。こうした取組みを積極化させるため、グループ会社間の連携を一層強化。鹿島グループの持つ総合力を活かし、建設周辺分野での収益化を図っていく考えだ。

左から天沼徹太郎氏、伊藤仁常務執行役員、川島慎吾課長
左から天沼徹太郎氏、伊藤仁常務執行役員、川島慎吾課長
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 セミナー後のアンケートでは参加者延べ約140人のうち、半数の70人以上が関心を示し、見積もりを依頼した病院もあったという。伊藤氏は「建設という現実世界とデジタルの世界をつなぎ合わせることで、いろいろな分野の効率化に生かすことができる。今後もデジタルツインを活用し、新たな価値を創造していきたい」と力を込めた。

提供:鹿島建設株式会社

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