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ポケモンと地域がタッグ キャンベルさんが訪れた「ポケモンローカルActs」の現場

 2月27日は「Pokemon Day(ポケモン・デイ)」━平成8年2月に最初のゲームソフト『ポケットモンスター 赤・緑』が発売された記念日として海外のファンの間で広まり、今年1月に日本記念日協会が認定した。ゲームを皮切りにアニメやグッズ、新しいテクノロジーを常に活用することでビジネス領域を広げ、四半世紀に迫る歴史を刻むなか、ポケモンがいま新たな活動に取り組んでいる。地域とタッグを組み、双方の魅力を国内外に発信する「ポケモンローカルActs」だ。日本文学を海外に発信してきたロバート キャンベルさんが活動の現場を訪れ、狙いや効果を探った。

鳥取砂丘の「馬の背」を背景に、サンド、アローラサンドと交流するキャンベルさん
鳥取砂丘の「馬の背」を背景に、サンド、アローラサンドと交流するキャンベルさん
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鳥取砂丘でサンドと交流

 2月15日土曜、鳥取県が誇る観光名所の鳥取砂丘。暖かな日差しが降り注ぐ中、高さ約47メートルに上る丘「馬の背」など自然の造形美に向かう観光客の前に突然、”ポケモン”2匹が登場した。県の「とっとりふるさと大使」を務めるサンドとアローラサンドだ。

 小刻みに足を動かして歩く姿に「かわい-!」という歓声が飛び、瞬く間に人だかりができた。記念撮影する人々を見て、キャンベルさんは「みんな大喜びですね」と目を細める。

グリーティングが始まるとすぐに記念撮影を求める観光客の行列ができた
グリーティングが始まるとすぐに記念撮影を求める観光客の行列ができた
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 県がローカルActsの一環として開く交流イベント「グリーティング」の一こま。毎月第3土曜を「サンドデー」とし、鳥取砂丘付近でグリーティングイベントを行うことで、ポケモンが観光の盛り上げに一役買っている。

 キャンベルさんが東京都内から旅行で訪れた20代女性に感想を聞くと「砂丘を見に来たらサンドがいて驚いた。かわいらしいし、楽しかった」と笑顔で話した。地元の会社員、横尾和也さん(33)は「ポケモン好きな人が鳥取を訪れてくれるきっかけになる」と期待を込めて語った。

 キャンベルさんは「グリーティングは日本のおもてなしに通じる部分があって面白い」と好奇心をくすぐられた様子だった。

 ローカルActsはグリーティングなどイベントのほか、地元企業とのコラボ商品も展開。鳥取では砂丘にちなみ、砂で作られたサンドとアローラサンドのフォトスタンドや、陶器の鈴も販売している。サンドデーの会場となっている鳥取砂丘ビジターセンターの竹ノ内司修副館長は「ヨーロッパから来た観光客が、サンドグッズを買いたいと訪ねてきたのでお店を紹介した」と海外に及ぶ影響力を実感する。

サンドとアローラサンドのコラボ商品。砂で作られたフォトスタンド(手前)や、鳥取砂丘の砂をイメージした和風クッキー「砂の丘」(左)など鳥取ならではの品が並ぶ
サンドとアローラサンドのコラボ商品。砂で作られたフォトスタンド(手前)や、鳥取砂丘の砂をイメージした和風クッキー「砂の丘」(左)など鳥取ならではの品が並ぶ
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 実際、訪日観光客(インバウンド)への効果にも期待が大きい。鳥取県は30年の外国人宿泊者数が前年比38.6%増の19万4730人と過去最高を記録。サンドたちが「とっとりふるさと大使」に就任したのは同年12月からで、まだ効果は反映されていないが、県広報課は「サンドをかわいいと思うのは海外からきた人も同じだと思う。世界的に知名度のあるポケモンと協力することで、鳥取を訪れたいという人も世界中で増えてくれるはず」と見据える。

 キャンベルさんは「サンドたちの前に高齢者や子ども、日本各地の人や訪日客が瞬間的に交錯している。例えば、それに加え、サンドと一緒に何かをつくるなど時間を過ごすことで、言語を超えた交流が生まれるのではないか」と話した。

被災地支援の活動が「ポケモンローカルActs」につながった

 ローカルActsを立ち上げたきっかけの一つは、東日本大震災の復興支援にある。ポケモンをプロデュースするポケモン社の有志社員は23年3月の発災後支援に取り組み、子どものケアの必要性を実感。傷ついた心を癒し、笑顔を取り戻してほしいという思いから支援活動「POKEMON with YOU(ポケモン ウィズ ユー)」を立ち上げた。

 活動では「就学支援」などを目的とした募金のほか、ポケモンのピカチュウと一緒に保育園や幼稚園などを継続的に訪問。24年からはワゴン車で被災3県を中心に延べ850カ所以上をめぐり、子どもたちに塗り絵やペーパークラフトなどの遊びを提供している。岩手と宮城を結ぶJR大船渡線では、内外装のいたるところにピカチュウのデザインを施した「POKEMON with YOUトレイン」も休日に運行している。

 そして大きな契機となったのが、位置情報を使ったスマートフォン向けゲーム『ポケモンGO』の登場だ。28年11月には被災3県の沿岸地域でゲーム内に珍しいポケモンが登場する支援イベントを実施。宮城県の試算によると、開催地の一つ石巻市は会期中の11日間で観光客計10万人が訪れ、約20億円の経済効果があったという。

令和元年8月に気仙沼市で行われたPOKEMON with YOUの活動の様子
令和元年8月に気仙沼市で行われたPOKEMON with YOUの活動の様子
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 ポケモン社プレイヤーリレーション部の須賀大五郎豊秀ディレクターは「ポケモンに人を動かす力があることが分かった。海外にも認知されるポケモンが地域の魅力を伝えることで、国内外の多くの人がその地域を訪れるきっかけにしたいと思った」と説明する。

 これを受け、ローカルActsは30年4月、本格的に始動。最大の特徴は鳥取県のサンドのように、各自治体のアピールを担う推しポケモンを選定することだ。

 各自治体は推しポケモンに関連したイベントの実施や、名産とのコラボ商品製作、デザインを入れたマンホール「ポケふた」設置などにフル活用しているが、キャラクター使用料は無償。須賀氏は「双方のファンを増やす相乗効果を加速するため、無償化が必要だと判断した」と説明する。

 これまで6道県で展開し、スタンプラリーの参加者は延べ20万人以上、コラボ商品は120種類を超えるなど着実に実績を残してきた。現在も、複数の自治体から新たな取り組みの打診があるといい、日本各地に推しポケモンの出現が広がりそうだ。

 須賀氏は「これからも地域の魅力を一つ一つ丁寧に発掘し、地元の人にも愛してもらえる企画にしていきたい」と力を込めた。

「ポケふた」は30年にイーブイ(左上)のマンホールが設置されたのを皮切りに、これまで全国に約70枚設置されている
「ポケふた」は30年にイーブイ(左上)のマンホールが設置されたのを皮切りに、これまで全国に約70枚設置されている
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伝統工芸、子育て、農業、列車…広がる活用 各地の特色アピール

 ポケモンローカルActsは、参加する6道県の特色が活動に顕著に表れている。観光はもちろん、伝統工芸や農業の振興、子育てまで目的は多岐にわたる。

 香川県は参加前から、特産品のうどんと語呂の近いヤドンを使うPR活動を実施し、幅広い活動を展開する。なかでも特徴的なのが、伝統工芸品とのコラボ商品。全国シェア9割を誇る丸亀うちわのほか、花崗岩(かこうがん)のダイヤといわれ、きめ細かな地肌が触り心地のいい県産の「庵治石(あじいし)」にヤドンを彫ったコースターやペーパーウェイトを販売。尻尾を模したかわいらしい香川漆器の箸や箸置きも人気だ。県観光振興課は「キャラクター使用料が無償なので、職人や中小企業でもコラボに参加しやすい」と語る。

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 観光地として知名度が高い北海道は、冬の期間に走る観光列車「流氷物語号」のPRや、利尻島・礼文島への離島航路の船内キッズルームで、推しポケモンのアローラロコンなどの活用を進めている。

 ポケモンと親和性の高い子育てや教育での活用も進めており、江差町のある檜山管内の小学校では、アローラロコンなどが入った自宅学習教材を配布する。道広報広聴課は「子どもたちが、教材を手に取るきっかけになれば」と期待する。

 また、デザインマンホール「ポケふた」は全国約70カ所(令和2年2月時点)のうち、15カ所が道内。なかでも比布町ではテントで雪から守るなど町民の手厚い対応で、「日本一過保護なマンホール」として有名になった。

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 東日本大震災の被災3県でも土地柄を反映した取り組みが目立つ。福島県は推しポケモンのラッキーのピンク色で丸い姿が名産のモモを連想させることから、桃狩りを行う観光果樹園や桃スイーツ店とコラボした。昨年は県内25地域をめぐるスタンプラリー企画「コードF」にも登場し、生息数が少ないという”ラッキー探し”に延べ19万3千人が参加。「ラッキー効果でポケモン好きの若者や女性、ファミリーの参加者が約2割増え、楽しんでもらえた」(県観光交流課)

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 岩手県は被災で運休していた三陸鉄道がリアス線として全線開通したことを記念し、昨年6月から推しポケモンのイシツブテなどいわタイプのポケモンが描かれたラッピング列車を運行。イラストは県の観光をアピールするキャラクター「わんこきょうだい」のデザイナーが手掛け、一味違うイシツブテを見ることができる。台風の被害で現在は一部区間のみの運行だが、3月20日に全線運行再開予定。「イシツブテに触れる機会を増やし、観光客や県民にさらに印象付けていきたい」(県観光課)

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 一方、宮城県は親子3世代をターゲットにした観光キャンペーンの一環としてラプラスを採用した。水の上を進むのりものポケモンという特性を生かし、ラプラスの形の水上遊具を県内各所のプールに設置。県観光課は「SNSに毎日のように写真が投稿され、反響の大きさに驚いた」と声を弾ませる。

 ポケモン社は「自治体や住民のみなさんと協力しながら、ポケモンとその地域の魅力を組み合わせることで、そこでしか味わえない体験をしてもらい、双方のファンになっていただく流れを作りたい」と話した。

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キャンベルさんの取材後記「仮想と現実の化学反応」

ロバート キャンベルさん
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 サンドのグリーティングを体験し、日本のおもてなしに通じる部分を感じた。茶事を例にとると客は茶室に入る前に待合で待たされる。そこで準備の気配を感じ、露地(庭)裏の草花を愛でる段階からおもてなしが始まっていると思う。サンドのグリーティングも同様で、国内外の観光客は鳥取砂丘に向かうまで、ゲームをやったりすることでポケモンの気配を感じられる。

 砂丘は『ポケモン GO』の道具が手に入るポケストップもたくさんあると聞き、仮想社会と現実社会のポケモンが半径数百メートル内に混在して化学反応が起きていると思った。いまは推しポケモンがいるのは国内のみだが、これからは海外の都市にもネットワークを広げられるのではないか。例えば、鳥取県が同じサンドを”推し”とする海外の都市と連携すれば相乗効果が出て面白そう。

 日本の地域の魅力は一言でいうと「豊か」だと思う。物質的な意味では都会は多くのものであふれている。だが、きょうも鳥取に来て座った瞬間により根源的なゆとりを感じた。気持ちや空間のゆとりと、そこから生まれるものへの思いや扱い方だ。せかせかしていないので、自分が緩んでしまうと感じる人もいると思うが、わたしはより能動的、積極的になれる。手紙を書いたり、モノを書いたり、深呼吸したりしてエネルギーが湧いてくる場所だと思う。

⇒「ポケモンローカルActs」について詳しく知る

推しポケモン、その由来は...

【北海道×アローラロコン、ロコン】

雪山に生息するきつねポケモンのアローラロコンは、豪雪地帯にふさわしいとして平成30年10月に「北海道だいすき発見隊」の隊長に就任。さっぽろ雪まつりには雪像が登場し、風土に適した PR 活動も展開する。同じきつねポケモンのロコンは副隊長として、ともに地域を盛り上げている。

【岩手県×イシツブテ】

いわタイプのイシツブテは「岩」に「手」がついている見た目が県名を象徴していることから、令和元年5月に「いわて応援ポケモン」に就任。公式イメージソング「岩と手!岩手!イシツブテ!」もロック(岩)調だ。

【宮城県×ラプラス】

水上を進むのりものポケモンのラプラスにのって、被災が大きかった沿岸部を旅してほしいという思いを込め令和元年7月に「みやぎ応援ポケモン」に就任。観光名所などを紹介する動画「みんなをノセて!ラプラスラップ~ラプラス+宮城巡り~」ではDJ役で登場し、ラッパーにふんした村井嘉浩知事らをリズムにのせている。

【福島県×ラッキー】

幸せ(福)を運ぶといわれるラッキーが県名にちなんで「ふくしま応援ポケモン」に就任。

おなかのタマゴはおいしく栄養がたっぷりとされており、農産物を通じて幸せを届けるという県の意向とも合致している。

【香川県×ヤドン】

特産品のうどんと響きが似ているヤドンが平成30年12月に「うどん県PR団」に就任。尻尾の先が甘く、あくびをすると雨が降るという言い伝えがあることも、名産の和三盆や水不足に悩まされてきた風土を連想させる。

【鳥取県×サンド、アローラサンド】

乾いた砂地を好み、いざというときに砂を使って身を守るサンドは、観光名所の鳥取砂丘がある県にふさわしいとして平成30年12月に「とっとりふるさと大使」に就任。雪山にすみかを変え、姿が変化したアローラサンドも一緒に活動する。

⇒「ポケモンローカルActs」について詳しく知る

提供:株式会社ポケモン

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