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【山本隆三の快刀乱麻】ブレグジットの余波 CO2の排出枠価格上昇へ

英国で行われたブレグジット反対集会(AP)
英国で行われたブレグジット反対集会(AP)

 3月29日に設定されていた英国のEU(欧州連合)離脱(ブレグジット)期限は最長10月31日まで延長されたものの、先行きは相変わらず不透明だ。筆者は今年2月に訪英し、ブレグジットが英国のエネルギー政策にもたらす影響について離脱派、残留派と面談し、意見を聞いた。

 その中で、国民投票の再実施についても尋ねたが、離脱派はもちろん残留派も再実施に否定的だった。結果にかかわらず、混乱が深まる可能性があるとの判断だ。

 ブレグジットをめぐり、企業が困惑するケースも出てきた。英国第2位の鉄鋼会社ブリティシュ・スチール(BS)が、EUの排出量取引制度(EU ETS)の義務を果たすための資金調達ができず、英国政府に1億ポンド(約145億円)の融資を依頼する事態になった。こうしたケースは氷山の一角とみられている。

排出枠を市場で購入へ

 EUでは2005年から、電力、鉄鋼などのエネルギー多消費型産業に属する企業への二酸化炭素(CO2)排出量の割り当てが行われ、割当量を達成するために排出枠を取引するEU ETSがスタートした。割り当て方法は各国政府に任されたため、甘い割り当てが行われたケースも多くあり、1トン当たりのCO2排出枠の価格は長く低迷が続いた。

 現在、1万1000以上の事業所がEU ETSの下で割り当てを受けている。割当量を削減するなどのテコ入れ策が功を奏し、CO2排出枠価格は1トン当たり20ユーロ程度で推移していた。

 ところが、ブレグジットの期限が迫るにつれ、排出枠価格は上昇傾向にある。その理由は、EUの割り当て事業所数でドイツに次いで約1割を占める英国企業の多くが、排出枠を必要としているためだ。以下の英国政府の説明で明らかなように、ブレグジットに伴って排出枠の割り当てが停止されたため、市場で購入せざるを得ない英国企業が出てきたのだ。

 英国政府の排出枠に関する主な方針は、(1)合意なき離脱の場合には、EU ETSの規則は英国には適用されなくなる(2)産業部門の19年1月からの排出量はEU ETSの対象外になる(3)EUを離脱した時点で、英国政府が管理するEU ETSと京都議定書の登録簿は閉鎖される-。こうした方針により、今後の排出枠取引などについて困惑する英国企業が多く現れている。

 企業の中には、当該年に割り当てられた排出枠を市場で売却し、自社の義務達成には翌年に割り当てられる排出枠を利用しているケースもあったが、ブレグジットにより排出枠の発行が停止され、その方法が利用できなくなった。

 前出のBSも同様の手法を採用しており、昨年の排出量の達成用に4月末までに排出枠を新たに購入する必要が生じた。

EU全体でも価格上昇へ

 英国政府が排出枠の発行を停止せざるを得なかったのは、EU委員会が離脱協定案批准まで英国企業への排出枠の発行を停止したからだ。EUの排出枠を得られなかったBSは、枠購入資金がなく、英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)に1億ポンドの融資を求めていると報じられている。

 BSは「ブレグジットがわが社にもたらす影響についてBEISと議論しており、BEISは責任を感じ強く支援してくれている」と発表している。

 BEISは「ビジネス関係の省として、多様な産業、企業と通常の議論を行っている」とインタビューに答えている。

 EUでは、数千の事業者がBSと同様、翌年の排出枠を当てにしてつじつまを合わせているとみられ、英国ではたちまち排出枠の需要が高まると予測されている。ブレグジットにより排出枠の価格は上昇を続けているが、来年にはEU全体で排出枠の需要が高まるとみられている。

 20年末に向けて、英国以外でも多くの企業が排出枠の購入を迫られることになるとみられている。排出枠の価格上昇は、英国とEUのエネルギー多消費型産業の競争力に影響を与えることになる。EU ETSの影響は今後拡大していきそうだ。

やまもと・りゅうぞう 常葉大学経営学部教授。京大卒業後、住友商事に入社。地球環境部長などを経て、2008年プール学院大学国際文化学部教授、10年から現職。財務省財務総合政策研究所「環境問題と経済・財政の対応に関する研究会」、経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。現在、国際環境経済研究所所長、NEDO技術委員などを務める。著書に『経済学は温暖化を解決できるか』(平凡社)、『夢で語るな日本のエネルギー』(マネジメント社)など。 

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