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【三井美奈の国際情報ファイル】FCAとルノー、統合案「破局」 セレブ会長2人の行方は

 販売台数世界一の自動車連合を目指した欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と仏ルノーの経営統合案は、発表から10日で破局した。FCA、ルノーとも昨年、「カリスマ経営者」を失ったばかり。FCAのジョン・エルカン(43)、ルノーのジャンドミニク・スナール(66)の2人の「欧州セレブ会長」が、社命をかけて手を組んだ計画だったが、土壇場で崩れた。

 エルカン会長は、イタリアのフィアット創業家アニエリ一族の御曹司。フィアット総帥だった祖父ジャンニ・アニエリ氏から後継指名を受け、21歳で取締役になった。母はジャンニ氏の一人娘、父は米国人作家で銀行一族の出身。ニューヨーク生まれで英仏伊、ポルトガルの4カ国語を操る。幼少時から帝王学をたたきこまれ、「スキー場では、祖父に一番険しい斜面に連れて行かれた」という。190センチ近い長身にモジャモジャ頭のイケメンで、妻の実家はイタリア屈指の旧名門貴族だ。

 エルカン氏は「名番頭」のカナダ人、セルジオ・マルキオンネ最高経営責任者(CEO)を昨年7月、失った。ゴーン被告と並ぶ業界のカリスマだった。負債まみれのフィアットを合理化し2009年、経営危機に陥ったクライスラーとの提携で蘇らせた。14年に完全子会社化してFCAを設立。これからという時、病に倒れた。

 マルキオンネ氏と、ルノーCEOだったゴーン被告はかつて提携を探ったという。強烈な個性がぶつかり、実を結ばなかった。

 対照的にエルカン、スナール両会長は生まれ育ちが似て、ウマがあったらしい。スナール氏は旧伯爵家出身で、父は外交官。美しい白髪で物腰柔らかく、エリートの典型だ。仏老舗のタイヤ大手ミシュランでCEOを長年務め、創業家を支える番頭としての心得もある。「50対50」の対等統合案は伊トリノのエルカン氏の豪邸、スナール氏の南仏の城を往復し、2人で極秘に練り上げたという。

 ルノーの販売台数は390万で、4分の3近くが欧州、ロシア、中東市場。FCAは480万で、北米市場が主だからすみ分けができ、釣り合いも良かった。ルノーと連合を組む日産自動車、三菱自動車が加われば販売台数1500万超の巨大自動車連合になる。エルカン会長、スナールCEOのコンビで、新会社が発進するはずだった。

 5日のルノー取締役会は、本格交渉への最後の関門だった。FCAは仏政府からの「工場は閉めるな」「政府の取締役を受け入れよ」という注文を大枠で受け入れた。いよいよ採決という寸前、政府は「日産自動車からOKが出ない」という理由で採決延期を要求。エルカン氏は即刻破談を伝え、「フランスは計画を進める政治状況にない」となじった。

 6日、FCA社員に送ったメッセージでは「交渉が迅速に進まなければ、決然と終わらせ、仕事に戻るべき」だと訴えた。決断の早さはマルキオンネ氏仕込みだろう。昨年、同氏の葬儀で「変化を恐れない勇気を学んだ」と語っていた。

 スナール氏は政府の意向に従い、取締役会で強行採決を避けた。採決延期を発表する声明に「仏政府の要望で決定できなかった」と書いたところに、無念さがにじむ。1月の就任から半年で、日産に続きFCAと、2つの経営統合案の破綻という苦い経験をした。

 エルカン氏の怒りを買った仏政府の高官は「扉は開かれている」と述べ、再考を促した。FCAとしても、欧州での提携相手探しは喫緊の課題だ。欧州連合(EU)の環境規制への対応が遅れ、罰金逃れのため今春、電気自動車(EV)メーカーの米テスラから二酸化炭素(CO2)排出権を18億ユーロ(約2000億円)で買ったほどで、最近までルノーのライバル、仏PSA(旧プジョーシトロエングループ)と交渉していた。再編が進む中、「見合い相手」はそう多くない。

 エルカン、スナール両会長が再び、よりを戻すことはあるのか。カギを握るのは日産だ。EVや自動運転という技術革新の中、業界再編が急ピッチで進む。2人の会長は共に、「現状では生き残れない」ことは十分に知っているはずである。(パリ支局長)

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