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ネットに接続できなくても…カシオの電子辞書が売れている秘密

 「電子辞書」と聞いて、どんなことを想像しますか?

 このように聞かれて、「学生のころはよく使っていたなあ。社会人になって、全く使わなくなったよ」「スマホで調べることができるので、今の時代に不要でしょ」と感じた人もいるのでは。

 電子辞書の国内マーケットを見ると、2007年に281万台の463億円(売上高)に達していたが、その10年後の17年には101万台の176億円に。ほぼ右肩下がりの市場を見て、「ほら、やっぱり。令和の時代に、英単語の意味を調べるだけのモノなんてオワコンだよ」と思われたかもしれないが、そんな中でも長期間にわたって売れている商品がある。カシオ計算機のエクスワードだ。

 1990年代半ば、大手メーカーが激しいバトルを繰り広げている中、カシオは後発組として、この市場に参入する。96年に1号機を投入したものの、期待するほど売れなかった。しかし、その後はじわじわと売れていき、18年の国内シェアは61.1%である(BCN調べ)。

 カシオの電子辞書はネットにもつながらないのに、なぜ売れ続けているのか。ロングセラーの秘密について、同社で電子辞書を担当している上田奈美子さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

 電子辞書の国内市場

 土肥: 電子辞書の国内市場を見ると、右肩下がりが続いているわけですが、そんな中でもカシオは奮闘していると言ってもいいかもしれません。国内外で年間100万台ほど売れていて、累計で3000万台以上も出荷しているそうで。96年に1号機を発売しましたが、その売れ行きはいかがでしたか?

 上田: タッチパネルを採用した「XD-500」(3万円、税別)という商品を発売しました。薄くて軽くて大画面(5インチ)だったこともあって、社内からも「これは売れる」といった声があって、盛り上がっていました。ただ、残念ながら、想定と違って売れなかったんです(涙)。

 いまの製品と違って、当時の商品は動きが“もっさり”していたんですよね。タッチパネルに打ち込んでも、もっさりもっさり動くといった感じ。「この言葉の意味を調べたいなあ」と思っても、もっさり動くので、なかなか意味までたどりつくことができない。そんな感じだったので、お客さんにとっては使い勝手が悪かったのかもしれません。

 社内から「これではいかん」という声が出てきて、構造を見直すことに。当時、PCが普及してきたこともあって、99年にキーボードを搭載した「XD-1500」(3万6000円)という商品を発売しました。

 このほかに、辞書コンテンツを見直したり、見やすいレイアウトにしたり。その中でも、最大の特徴は「ネイティブ音声」を収録したこと。1号機を出して、お客さんから「英単語の意味だけでなく、発音も聞きたい」という声があったので、2号機で搭載することに。合成音声ではなく、ネイティブ音声を聞けることがウケて、販売台数は目標の1.5倍ほどに達しました。

 高校生向けの電子辞書を発売

 土肥: 電子辞書って学生が使っているイメ-ジがあるのですが、当時のモノも学生を中心に火がついたのですか?

 上田: いえ、シニア層を中心に売れました。50代以上になると、老眼が進んで、小さな文字が見えにくくなりますよね。紙の辞書は文字サイズが小さいので、「調べにくい」といった声がありました。

 土肥: なるほど。電子辞書は文字サイズが大きいので、シニア層にとっては使いやすいわけですね。そもそも、この市場に参入するにあたって、ターゲットはシニア層に絞り込んでいたのですか?

 上田: 1号機を投入する前に、簡易型の電子辞書「TR-2000」(9800円)を扱っていました。電卓の画面に文字を打ち込むと、意味が出てくる。いま振り返ると、画面サイズが小さくて使い勝手はすごく悪かったと思うのですが、当時はとても好評でした。この商品はシニア層を中心に売れたので、「もっと見えやすいように」という意味で、画面を大きくしました。

 土肥: 発売当初はシニア層を中心に売れたということですが、学生が使うようになったのはいつごろからでしょうか?

 上田: 電子辞書を展開する中で、「高校生にもニーズがある」ことが分かってきました。特に「古語辞典が入った電子辞書を使いたい」という声が多かったんですよね。古語辞典をどのように使っているのか調べたところ、高校生のときにしか使っていない人が多いことが分かってきました。ということであれば、古語辞典を収録すれば、使い勝手がいいのではないかと考え、01年に高校生専用のモデル「XD-S1200」(3万円)を発売しました。

 学校で使う辞書として、英和、和英、国語、漢和、古語の5つを収録したので、社内からは「これはいける」といった声が多かったのですが、爆発的には売れませんでした。なぜか。家電量販店などでの売れ行きはよかったのですが、高校での反応が厳しくて。当時、多くの先生は「辞書は紙でひくものだ」といった考えが根強かったので、学校での営業活動は苦戦しました。

 お客さんから「壊れた!」の声

 土肥: いまでも、たまに「辞書は紙でひくものだ」といった声を聞きますが、当時の拒否反応はかなり強かったのですか?

 上田: 電子辞書についてご説明しても、「じゃあ、紙の辞書はいらないのか」といった声をたくさんいただきました。もちろん、紙の辞書を否定しているわけではありません。紙には紙の良さがあって、電子には電子の良さがあると思っています。電子は持ち運びが便利で、速く調べることができる。というわけで、「紙の辞書との併用はいかがですか?」といった感じで、ご説明して回りました。

 それでも、すぐには普及しませんでした。国語の先生はなかなかご理解していただけなかったのですが、英語の先生は違いました。英単語の発音を聞くことができることと、意味を調べていて分からない単語が出てくればそれも簡単に調べることができる。この2つの機能を高く評価していただき、「これを使えば、生徒が勉強に興味を示してくれるのではないか」といった声が増えてきました。

 その後も、お客さんの声を受け、改良を重ねていきました。「重い」という声があれば、軽くして、「かさばる」という声があれば、薄くして。そんなこんなで3年ほど経つと、国語の先生も認めていただけるようになって、徐々に広がっていきました。

 土肥: ということは03年ころから、高校生の手元に電子辞書が広がったわけですね。

 上田: 薄くして軽くしていったわけですが、想定していなかった声が届きました。それは「壊れた」でした。

 土肥: 壊れた? 不良品だったのですか?

 上田: いえ、そういうわけではありません。品質に問題はなかったのですが、高校生は扱いがちょっと雑ですよね。鞄の中に電子辞書が入っているのにもかかわらず、鞄を放り投げる。鞄の中に電子辞書が入っているのにもかかわらず、自転車に激しく乗る。ガタガタの道路でも、強い振動を受けながら走行する。そうしたタフなシーンに液晶が耐えられなくなって、割れてしまうケースが出てきました。

 シニアの方々は家のリビングなどで使うことが多く、大事に大事に扱ってくれる。このようなシーンを想定していたので、開発チームは液晶が割れるなんて想定していませんでした。

 「調べたい」と「勉強したい」の声

 土肥: カシオの時計で、看板商品といえば「G-SHOCK」。トラックに踏まれても、ビルの屋上から落としても、壊れないことをウリにしていますよね。ちょっと衝撃を加えただけで液晶が壊れるなんて、同じ会社として許されなかったのでは?

 上田: そーなんです。液晶が割れることに開発チームは心を痛めましたが、「次は、壊れにくいモノをつくろう」となりました。液晶は押されたり、ひねられたりすることに弱いんですよね。この弱さから守るために、液晶の内側と外側にカバーをつけることに。はさむような形にして、液晶を割れにくい構造にしました。

 04年、液晶が割れにくい堅牢設計モデル「XD-L4600」(4万2000円)を発売しました。その後、「部首や画数が分からないので、手書き入力で調べることはできないか」という声があったので、手書き入力機能を搭載することに。「液晶は白黒ではなくて、カラーで見たい」という声があったので、カラーモデルを投入することに。

 土肥: 手元の資料を見ると、電子辞書市場でカシオは15年以上シェアトップが続いていますよね。その要因をどのように分析していますか?

 上田: お客さんの声を聞いて、改良を重ねてきたことが大きいのかもしれません。先ほどご紹介したように、1号機は万人受けするようなモノでした。その後、商品を展開することで、さまざまなニーズがあることが分かってきました。高校生向けのモデルだけでななく、中学生や小学生向けも開発しました。ちなみに、小学生には高学年と低学年向けに、それぞれ用意しました。

 お客さんから「フランス語を勉強したい。電子辞書を出してくれないか」といった声があったので、さまざまな言語に対応したモデルを発売しました。いまではフランス語、ドイツ語、スペイン語/ポルトガル語、イタリア語、ロシア語、中国語、韓国語を出しています。

 土肥: 現在、販売しているモデルを数えると、ひー、ふー、みー、よー……25モデルもある。

 上田: これまでたくさんのモデルを出してきましたが、新しいタイプを出しても、すべての人のニーズを満たすことは難しいなあと感じています。お客さんから「こうしたモノを出してほしい」という声があれば、できるだけ対応してきました。新しい機能を搭載すると、またお客さんから「こうしたモノを出してほしい」という声があります。

 土肥: 最近はどんな声が多いのでしょうか?

 上田: 以前は「調べたい」という声が多かったのですが、2010年代に入って「勉強したい」という声が増えてきました。電子辞書を使って、勉強したいという人が増えてきまして、さまざまなことに対応してきました。例えば、受験改革の一環として、いま多くの高校生は英検(実用英語技能検定)を受験しています。こうした背景があるので、電子辞書の中に、試験対策のコンテンツを搭載しました。英単語を覚えるドリルだけではなく、予想問題、過去問題など、本番の試験と同じようにマークテスト方式で勉強できるようにしました。

 電子辞書には電子辞書の良さ

 土肥: いまのモデルを見ても、ネットにつながるモノはないですよね。お客さんから「ネットにつなげるようにしてよ~」といった声はないですか?

 上田: そうした声はたくさんいただいていますが、現時点でネットにつなげる予定はありません。電子辞書を使ってネットを見ることができるようになると、勉強以外のことも目に入ってきますよね。そうなると、多くの先生は拒否反応を示される。ただ、閲覧に制限をかけるなどして、学習意欲につながるような形であれば、受け入れてくれるかもしれません。

 土肥: かつて「辞書は紙でひかなければいけない」という常識があったように、いまはまだ「電子辞書はネットにつなげてはいけない」という考えが根強そうで。ただ、環境が整えば、ネットにつながるモデルも登場しそうですね。

 上田: スマホにはスマホの良さがあって、電子辞書には電子辞書の良さがあると思うんです。そうした中で、私たちができることは何か。お客さんの声を聞いて、改良を重ねること。電子辞書の強みを生かしながら、進化を続けることができればなあと。

 (終わり)

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