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中小企業のIT活用「待ったなし」 中小機構が“衝撃”動画『今日、部下が会社を辞める。』

 独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が配信中の動画『今日、部下が会社を辞める。』が話題を集めている。部下の退職の日に、上司と部下との感動ストーリーが展開されるのかと思いきや…。予想できない衝撃的な展開に視聴回数は急上昇している。中小機構が今回の動画を制作した狙いとは―。

部下と上司の感動ストーリーのはずが…

 上司「ほんとうに3年間お疲れ様でした」

 部下「ありがとうございました」

 3年間苦楽を共にした部下が今日、会社を辞める。部下に花束を渡す上司。周囲の社員たちが拍手を送る。上司は部下が入社した時からの3年間を振り返る。部下を叱り、取引先に一緒に詫びを入れ、酒を酌み交わした日々。上司は「私はいい上司だっただろうか」と自問する。

 なんとなくどこの会社にもありがちな場面。このまま終わるのかと思われた動画には、さらに続きがある。ここから先はネタバレになるので実際に動画を見てほしいのだが、その衝撃的?笑劇的?な展開がネット上で話題を集め、ユーチューブの再生回数は126万回を突破した。

 「フェイスブックやツイッターなども合わせると、再生回数は270万を超えました。公的機関が作成した動画で、これだけの回数が閲覧されるのは過去にないのではないかと思うほど注目を集めました」。想定を超える反響に中小機構広報課の林隆行課長は驚きを隠さない。

 ユーチューブのコメント欄には800件超のコメントが寄せられているが、その中には、「若者の気持ちを映像化してくれてありがとう」「前半は何だこの綺麗事はと思っていたけど後半は最高だった」「ユーチューブを見ない年齢の方達にこそ是非見てほしいですね」といった声も寄せられていた。

狙いはIT活用の啓発

 中小機構が、公的機関が制作したとは思えないような内容の動画を制作した狙いはどこにあるのか。林課長はこう説明する。

 「ここ数年、人手不足が叫ばれていますが、大企業に比べ、中小企業はもっと深刻です。中小企業がITによる効率化に取り組まないと、会社そのものが立ち行かなくなる可能性があります。中小企業の経営者のみなさんにIT活用を真剣に考えてほしいと訴えたかったのですが、中小企業には経営者や家族、従業員を含めると、関係者がたくさんいます。こうした方々にも見てもらう内容にすることで、問題意識を共有してもらいたかったのです」

中小機構広報課の林隆行課長
中小機構広報課の林隆行課長
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 日本の企業の99.7%は中小企業で、その数は約380万社にのぼる。中小機構が2017年3月に約1000社の中小企業を対象に実施した人手不足に関するアンケート調査をみてみると、人手不足を感じている中小企業は73.7%に達している。

 人手不足を採用で補おうとしても人材を確保するのは至難の業だ。労働市場調査などを行っているリクルートワークス研究所の調査によると、来春大学卒業予定者の求人倍率は、従業員数300~999人規模の大企業の1.43倍に対して、従業員数300人未満の中小企業は9.91倍以上にも上昇している。1000~4999人規模の企業では1.04倍、5000人以上の大企業ともなると0.37倍と、規模が大きくなればなるほど求人倍率は低下する。一方で、中小企業は大学生1人に対して、中小企業10社が奪い合っている、という構図だ。

 慢性的な人手不足はどこで補われているのか。それは従業員の「残業」や「兼務」。人手不足を感じている中小企業に実施した調査によると、「残業の増加」「従業員の多能化、兼任化」によって対応したとの回答が全体の約6割を占めた。従業員の「がんばり」に頼っている、というのが実態だ。

 少子高齢化を背景に、労働力の中核をなす15~64歳の生産年齢人口は今後、さらに減少する見通しで、人手不足はさらに深刻化することが見込まれている。2019年4月には時間外労働の上限規制などを定めた「働き方改革関連法」が施行される。大企業が先行するが、翌20年には中小企業にも適用される。従業員のがんばりだけでは人手不足を補えなくなる時代が目前に迫っている。

 人手不足の解消にはITの活用によって業務を効率化し、生産性を向上させることが効果的だが、しっかりと取り組んでいる中小企業は全体の半分弱にすぎない。中小機構でも「『人手不足は人手で解消するしかない』というような従来型の発想から抜け出せない経営者が多いのが実情で、IT活用に対する意識改革が必要になっています」(林課長)と危機感を強めている。

ITは業務の効率化にどう役立つ?

 では、ITは業務の効率化や生産性の向上にどう役立つのか。

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 中小機構では「生産性向上」特設サイト(https://seisansei.smrj.go.jp/#) を開設し、経営の効率化に役立つ事例や、無料または低料金で利用できるアプリの紹介を始めている。

 例えば、飲食店の場合、スマートフォンやタブレットで客の注文から会計まで一元的に管理してくれるシステムがある。スマホ上で注文のメニューを押すと、その情報が厨房のタブレットに表示され、料理を作る。レジにも連動していて自動的に会計処理をしてくれる。一連の作業を紙の伝票で処理している店は少なくないが、このシステムを導入すれば、ホールの従業員がいちいち厨房に注文された伝票を持っていくことはなく、レジ計算の作業から解放されるだけでなく、注文や会計のミス防止にも効果的だ。

 交通系ICカードを勤怠時間管理に利用できるシステムもある。これもシステムを利用して自動集計してくれる。社員や嘱託・契約社員、アルバイトなど異なる雇用形態や勤務時間などに合わせて勤務実態を把握でき、毎月支払う賃金の計算が自動でできる。総務・管理部門の作業の効率化に貢献してくれる。

 このほか、見積もり作成を支援するシステムやネットショップの開設を手助けしてくれるアプリ、配車や来店予測など作業に手間がかかるさまざまなシチュエーションで業務の効率化や生産性の向上に効果を上げるシステムやアプリが数多く開発されている。

 現在、このサイトではすぐにでも導入可能な無料または月数千円程度の低料金で導入できる9種類のアプリを紹介しているが、中小機構では今後もアプリの紹介数を増やす予定で、「来年3月をめどに分野の数も増やして100以上のアプリを紹介できるようにしたい」としている。

 人材不足とともに中小企業経営者たちの課題となっているのが、事業承継問題だ。中小企業経営者の6割が60歳以上で、そのうちの約半分で後継者が見つかっていない。経営上は黒字を維持しているのに廃業せざるを得ない中小企業も増えている。このまま廃業を放置すると、約650万人の雇用が失われるとの試算もある。後継者難の背景には、経営の効率化が進まないことも一因にある。ITの活用によって業務の効率化を進めることは後継者への経営に対する負担軽減にもつながる。後継者難を救うきっかけになることも期待される。

 中小企業にとって、IT導入は「待ったなし」だ。中小企業の経営者のみなさん、まずは、動画をみて、従業員たちの本音を見つめ、「生産性向上」特設サイトで、IT導入を検討してみてはどうだろうか。

来年1月ロゴマークを一新

 中小機構は来年1月1日からロゴデザインを一新する。

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 中小企業の「自ら前進する力」と中小機構の「後方から基盤的に支える力」を2本の矢印「タンデムアロー」としてデザイン。上のオレンジ色の矢印は未来を切り開く情熱を象徴し、下のブラックの矢印は中小企業の成長支援のための基盤を作る中小機構の役割を表現したという。

 コミュニケーションワードの「Be a Great Small.(ビー・ア・グレート・スモール)」は、「規模の大小に関係なく、偉大な価値を生み出す、かけがえのない存在」としての中小企業への敬意を表現しているという。

 中小企業基盤整備機構 日本の中小企業政策の総合的かつ中核的な実施機関として、さまざまな中小企業の支援を行う経済産業省所管の独立行政法人。全国9カ所の地域本部を拠点として、中小企業の事業活動の活性化に向けて、経営相談や研修、共済制度、ファンドを通じた資金提供などの多様な支援を実施している。

(提供:中小企業基盤整備機構)

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