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脳梗塞モデルラットの神経再生と運動機能回復に成功

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 学校法人 順天堂
~脳梗塞患者の機能回復を目指した新規治療薬の開発へ~

 順天堂大学大学院医学研究科・神経学(脳神経内科)の平健一郎大学院生、上野祐司准教授、服部信孝教授らの研究グループは、脳梗塞モデルラットに発現する軸索ガイダンス因子のセマフォリン3A(*1)を薬剤でブロックすることで、脳組織の神経再生(軸索再生)と、ラットの運動機能回復を促進させることに成功しました。本成果は脳梗塞後の神経再生に関わる病態機構の解明に寄与するとともに、機能回復を目的とした脳梗塞新規治療薬の開発に繋がるものと期待されます。本研究は、米国科学雑誌「Stroke 」のオンライン版で2018年9月11日に公開されました。

 【本研究成果のポイント】

 脳梗塞2週間後(亜急性期)のperi-infarct area(脳梗塞巣から300μm以内の梗塞周辺領域)にはセマフォリン3Aの発現が顕著に増加していた。
セマフォリン3Aを阻害することにより神経軸索の再生と運動機能回復がみられた。
セマフォリン3A阻害薬が脳梗塞後の機能回復を目的とした新規治療薬となる可能性がある。

 【背景】
我が国における脳血管疾患患者数は約120万人にのぼり、多くの患者は運動麻痺、しびれ、認知機能障害などの後遺症に悩まされています。その中でも脳梗塞は脳血管疾患全体の約7割を占め、患者数は増加傾向を示しています。近年、経静脈的血栓溶解療法や血栓回収デバイスによるカテーテル的血栓回収療法が普及し、脳梗塞の急性期治療が飛躍的に進歩しました。しかし、脳梗塞により一度生じた脳の機能障害に対する回復の面では、まだ十分な薬物治療はありません。また、脳梗塞後遺症患者に対する医療費や介護費用は莫大で、医療経済的にも患者の運動機能や認知機能の回復を目的とした新規治療法の確立が求められています。
脳梗塞後の機能回復において、神経細胞から伸展する軸索再生は損傷された中枢神経組織の緻密な神経回路の再構築に重要な役割を担います。セマフォリン3Aは軸索ガイダンス因子であり、脊髄損傷モデルではセマフォリン3A阻害剤により、損傷後の神経再生と機能障害回復が促進されることが報告されています。 しかしながら、脳梗塞動物モデルでは、軸索再生や機能回復に関する報告はありませんでした。
これまで脳梗塞治療では急性期治療が主体となっていましたが、私たち研究グループは脳梗塞後に出現するセマフォリン3Aに着目し、慢性期における軸索再生や機能障害の回復を治療ターゲットとする視点から本研究を開始しました。脳梗塞モデルラットや培養神経細胞において、セマフォリン3Aがいつどのように発現するか、また、セマフォリン3Aを機能阻害することで軸索再生、機能回復に変化があるかを検証しました。

 【内容】
今回の研究では、まずラット永久的中大脳動脈閉塞モデル(*2)を作成し、peri-infarct areaにおけるセマフォリン3A の発現を解析しました。セマフォリン3Aは脳梗塞後7日より14日までに上昇し、その後56日目にかけて減少しました(図1)。つまり、セマフォリン3Aは脳梗塞後亜急性期のperi-infarct areaに強く発現することを確認しました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/74/resize/d21495-74-159944-2.jpg ]

 初代神経細胞培養では、虚血負荷後にセマフォリン3Aを機能阻害することで軸索のマーカーであるpNFH(リン酸化ニューロフィラメント重鎖)の発現が著しく上昇することを確認しました。この作用機構としてセマフォリン3A関連シグナル蛋白群が関わることが示されました。更に、虚血負荷後に新生される軸索にはpGSK3β(リン酸化グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β)が発現し、軸索が伸展している現象を確認しました(図2)。

 [画像2: https://prtimes.jp/i/21495/74/resize/d21495-74-107818-1.jpg ]

 一方で、peri-infarct areaでは脳梗塞慢性期に活性化アストロサイトがグリア瘢痕を形成し、軸索再生を阻害することが知られています。研究グループは、虚血負荷後のアストロサイト培養において大日本住友製薬が見出したセマフォリン3A阻害薬を投与すると、活性化アストロサイトが制御されることを確認しました。更に、セマフォリン3A阻害薬を投与した虚血後の培養アストロサイトから放出されるエクソソーム(細胞から分泌される直径約40~100nmの膜小胞)がptgds(プロスタグランジンD2合成酵素)を介して軸索再生に促進的に作用することを発見しました。
そこで、ラット永久的中大脳動脈閉塞モデルのperi-infarct areaにセマフォリン3Aが発現上昇する脳梗塞亜急性期に直接セマフォリン3A阻害薬を0.1mg/ml、1mg/ml、3mg/mlと濃度別に投与しました。mNSS(*3)とRotarod(*4)で神経徴候、運動機能を評価し、3mg/mlのセマフォリン3A阻害薬投与群において神経徴候、運動機能の改善を認めました(図3)。セマフォリン3A阻害薬を投与することで脳内におけるセマフォリン3Aの発現は減少し、pNFHの発現は上昇していました。
[画像3: https://prtimes.jp/i/21495/74/resize/d21495-74-717789-3.jpg ]

 以上の結果から、脳梗塞後亜急性期のperi-infarct areaで顕著に発現するセマフォリン3Aを機能阻害することで、pGSK3βに代表されるセマフォリン3A関連シグナル蛋白群の調節や、アストロサイトの活性化やアストロサイトから分泌されるエクソソームの制御を介して、慢性期の軸索再生やラットの運動機能回復が促進される事が明らかになりました(図4)。つまり、セマフォリン3A阻害薬が、脳梗塞後の運動麻痺等の後遺症に対する新規治療薬となる可能性が示されました。

 [画像4: https://prtimes.jp/i/21495/74/resize/d21495-74-889491-0.jpg ]

 【今後の展望】
中枢神経系では、神経細胞やアストロサイト以外にもマイクログリアやオリゴデンドロサイト等のグリア細胞が多数存在します。脳梗塞後のperi-infarct areaにおいてもマイクログリアやオリゴデンドロサイトが軸索再生や機能回復に関わり、エクソソームはこれらの細胞間ネットワークにも関わり軸索再生の役割を担っていると予想されます。研究グループは引き続き、脳梗塞後の軸索再生とエクソソームの関係について研究を進めていきます。

 【用語解説】
*1 セマフォリン(Semaphorin)3A: 軸索ガイダンス因子であり、軸索ガイダンスの反発作用がある。
*2 ラット永久的中大脳動脈閉塞モデル: 4-0ナイロン糸の尖端部を加工し、ラット中大脳動脈に挿入することで脳梗塞モデルとなる。
*3 mNSS: Modified neurological severity scoreの略。運動、感覚、バランス及び反応試験を複合した統合的な神経機能評価スコアのこと。正常が0点、最大の神経機能欠損が18点で表される。
*4 Rotarod (ロタロッド): 運動機能検査の一種であり、回転するロータからラットが落下するまでの時間(秒)を記録することで運動機能を評価する。

 【論文】
本研究成果は科学雑誌「 Stroke 」オンライン版(2018年9月11日付)で公開されました。
論文タイトル:Astrocyte-Derived Exosomes Treated with a Semaphorin 3A Inhibitor Enhance Stroke Recovery via Prostaglandin D2 Synthase
日本語訳:セマフォリン3A阻害薬で投与したアストロサイト由来エクソソームはプロスタグランジンD2合成酵素を介して脳梗塞後の回復を促進させる
著者名 : Kenichiro Hira1、Yuji Ueno1、Ryota Tanaka1.4、Nobukazu Miyamoto1、Kazuo Yamashiro1、Toshiki Inaba2、Takao Urabe2、Hideyuki Okano3、Nobutaka Hattori1
著者(日本語表記): 平健一郎1、上野祐司1、田中亮太1.4、宮元伸和1、山城一雄1、稲葉俊東2、卜部貴夫2、岡野栄之3、服部 信孝1
所属: 1)順天堂大学医学部神経学講座、2)順天堂大学医学部附属浦安病院脳神経内科、3)慶應義塾大学生理学教室、4)自治医科大学附属病院脳卒中センター
掲載誌: Stroke
DOI: 10.1161/STROKEAHA.118.021272
特許情報:特許出願済み

 【謝辞】
本研究にご尽力頂きました順天堂大学革新的医療技術開発研究センター 野尻宗子先生、柳澤尚武先生、Department of Sociology, Texas A&M university Dr. Arthur Sakamotoに感謝申し上げます。
なお、本研究はJSPS科研費 JP17K09764、MEXT科研費 S1311011、S1411066、先進医薬研究振興財団 循環医学の研究助成を受けて実施されました。

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