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【狙われた情報通信】(上)3次元技術、中国腕ずく

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【狙われた情報通信】
(上)3次元技術、中国腕ずく

何者かによって真空包装が破られたPROMチップ

 ■日本舞台に暗躍、水際で回収

 電子情報空間を戦場とする国家間の攻撃・報復合戦は「サイバー戦争」と呼ばれ、米国と中国の間で日常化している。日本にとっては決して対岸の火事ではない。中国はひたひたと日本国内の情報通信技術および関連産業の現場に浸透している。その実態を報告する。

 ◆米当局から警告

 7月28日夕、東京滞在中の米国人コンピューター技術者K氏は米カリフォルニア州シリコンバレーの中心、サンノゼ市にある自身の研究所スタッフから緊急連絡を受けた。「捜査当局から警告が入った。R社が購入した米国アルテラ社製のFPGA(製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路)一式がそっくり31日に中国の手に渡されようとしている」

 R社とは、K氏が持つ技術をベースに2011年、東京に設立されたベンチャー企業。パートナーのシステム設計会社S社と組んで、独立行政法人「情報通信研究機構(NICT)」(本部・東京都小金井市)から昨年8月に3次元(3D)立体画像のリアルタイム伝送システムを受注した。FPGAチップ一式は同システム用スーパーコンピューターの中枢部を占める。米政府は軍事転用可能な最先端技術として監視している。

 慌てたR社は同日夕、チップ一式全てを預けているプリント基板製作会社F社の担当部長に問いただすと、基板の設計会社P社に置いていることが分かった。K氏らは翌日午前、横浜市のP社に車で乗り込み、全てを回収した。

 FPGAは200個。1個当たり36万円で、総額7200万円に上る米国の輸出禁制品である。厳重な管理が要求される技術資産を、F社は所有者の断りなくよそに運び込んでいた。

 ◆三重包装破られ

 点検してみると、FPGA用段ボール24箱のうち1箱と、FPGAとPROM(特定の手順で書き込みが可能な読み出し専用メモリー)用の3箱全てが開けられていた。二重、三重のPROMの真空包装が全て破られ、チップはむき出しだ。PROMはFPGAとセットになる半導体で、K氏が3D画像処理のための基本データ(ソースコード)をアルテラ社の施設で書き込み、FPGAとともにシステム中枢を構成する手はずだった。運び出した人間はソースコードがすでに書き込まれていると踏んで、読み取り装置にかけてコピーしようとしたのだろうが、幸いK氏はどのチップにもまだ書き込んでいなかった。

 FPGAやPROMの包装を破るだけでも、米国では違法行為として厳重に処罰される。K氏は帰国して米連邦捜査局(FBI)に詳細を報告。R社とS社は現在、日本の輸出管理を担当する経済産業省に通報する方向で検討している。

                    ◇

 ■「中国の工作員すでに2000人」「日本人カネに弱い」やすやすと

 軍事転用可能な最先端技術の中枢部品が奪われかけた一件には伏線があった。

 7月19日、K氏は中国・深センのホテル・ラウンジで旧知の中国空軍の長老H氏と向き合っていた。H氏は自分の携帯電話を取り出すと、「中国科学院幹部からのあなた向けのメッセージがある」とショートメールの画面を開けた。

 「日本のNICTは3D立体画像技術開発で多視点型とホログラム方式の2つのグループが技術開発に取り組んでいる。Kさんは多視点型でわれわれと組んでくれないか」

 発信者は「阮昊 上海」、日付は6月14日午前11時4分となっていた。

 ◆ミサイル防御網突破

 NICTは同プロジェクトを「超臨場感映像システム」と名付けている。NHKはこの技術をもとに、2020年東京五輪で3D眼鏡なしで見られる次世代の立体テレビ試験放送を目指している。いかにも民生用に見えるが、この技術を使えば標的を瞬時に探り当て、距離を寸分狂わず測定できるため、無人偵察機、中距離ミサイル、“空母キラー”といわれる対艦弾道ミサイルの目になる。ミサイル攻撃の際、電波錯乱によるミサイル防御網をやすやすと突破できる。

 メールの発信者である阮昊氏は43歳のエリート技術者。「中国科学院上海光学精密機械研究所(SIOM)室主任」の肩書だが、情報通信技術開発の「中国科学院上海微系統研究所」(SIMIT)担当を兼務している。

 「科学院」は中国人民解放軍と直結しており、SIOM、SIMITとも軍事技術開発の中核である。両研究機関は衛星やレーザーを使った地上攻撃、対立国の衛星破壊の技術開発に全力を挙げており、サイバー戦の頭脳でもある。阮昊氏は衛星を使った中国の軍事技術開発のキーマンであり、3D画像技術開発の先駆者であるK氏の取り込み説得工作を依頼したのだった。

 H氏は「われわれには3D画像技術に20億元(約340億円)の研究資金がある。中国の対日優位は揺るがない」と強調。さらにK氏の両親が南京市出身であることを念頭に「あなたの親は南京事件を忘れちゃいないだろう。日本なんか見切って、われわれに協力しろ」と迫り、ただちに上海に飛んで阮氏に会おうと誘いかけた。これに対し、K氏は「私は米国人だ。そのつもりは全くない」と席を立った。FPGA(製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路)チップ盗難未遂はその後に起きた。技術提供を拒んだことで、今度は腕ずくで奪うつもりだったのか。

 H氏はあけすけに、対日工作の手口をK氏に打ち明けていた。「日本人はカネに弱い」「われわれはすでに日本に2千人の工作員を送り込んでいる」

 ◆大手の技術流出5件

 一口に情報技術(IT)、情報通信技術(ICT)といっても、完成品に仕上げるためには関連産業の裾野を形成する中小企業群の協力が必要だ。ITコンサルタントの山本一郎氏は外務省発行の雑誌「外交」(Vol.24)への寄稿論文で、半導体ボード試作会社の幹部が中国系企業によって買収されていることを明かした。試作会社経由で大手の技術が中国に流出する事件が昨年5件、日本政府に報告された。

 例えば、大手の光学機器メーカーが開発した最新式の大容量画像処理ソフトウエアや、自動車メーカーが開発中の自動運転用センサーの技術が試作会社を通じて中国に流出したという。光学機器メーカーはシステムに同社の目印を刷り込んでいたら、目印ごとコピーした技術が香港で出回ったことで流出が発覚した。ところが、この光学機器大手は中国市場でのビジネスへの悪影響を考慮して、告発を見送った。

 中国は深セン地区を中心に半導体ボードの製作会社が集積し、その世界生産シェアは45%にも達する。日本の大手機器メーカーは試作品を中国に発注することが多い半面、日本のボード会社も深センなどに進出して中国系企業との提携関係を築いている。SIMITやSIOMは人海戦術で日本産業の裾野に入り込み、サイバー攻撃に必要な個別の技術を日本から収集して、まとめ上げる使命を帯びている。(サイバー問題取材班)

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