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【話の肖像画】旭化成フェロー・吉野彰(65)(1)「不可能」こそ当たりくじ

インタビューに答える吉野彰さん=2013年9月
インタビューに答える吉野彰さん=2013年9月

 〈スマートフォン(高機能携帯電話)やノートパソコンなど、持ち運び可能な小型電子機器の電源として広く使われているリチウムイオン二次電池(LIB)。吉野彰さんはその生みの親として知られる。電力不足や環境保護意識の高まりなどを背景に、LIBは電気自動車(EV)や住宅用蓄電システムなどの用途で大型化が進み、市場の大幅な拡大が期待されている〉

 LIBは携帯電話やパソコンなどの電源として急速に普及し、ITの進歩とともに育ってきました。今、EVなどに使われる大型LIBが第2の波としてきていますが、ややもたついている感じもします。この状況はIT革命が起こる前の1990年代前半と似ている。工場を建て、製品を作り、メーカーも一般の消費者も高い関心を寄せているんだけれど、なかなか売れない。一番きつい時期です。本格的な普及までにはあと2~3年かかるでしょうが、動き出したときは一気に弾みが付くでしょう。

 LIBの技術は、ITという一つの市場に対応するように進歩してきました。しかし、第2の波は資源やエネルギー、環境といった別の観点から起きたものです。これに対応するには少し見方を変えた方がいい。これまでの技術はあくまでIT革命の流れをくんで開発されたものであって、違う特性を求められる新たなニーズに対しては別の考え方を取り入れなければならなくなることが多々出てくると思います。

 今後、何らかのイノベーション(技術革新)が起こると思うのは充電の技術です。二次電池を使うときには必ず充電作業が伴いますが、充電に関する技術はこの二十数年間、ほとんど変わっていません。今まではそれで間に合っていたから技術が進歩してこなかったのでしょう。逆にいえば、変化していない技術には革新の余地があるということです。革新されれば、知らぬ間に充電されたり、究極的には充電の必要がなくなったりするかもしれません。

 EV用途での最大の課題は充電ではないでしょうか。時間、場所、インフラを含めてです。充電でイノベーションが起こればコストが下がり、寿命も伸びるでしょう。それには電池だけでなく周辺技術のイノベーションも必要になってくるはずですが、そういうことが起きたらLIBのイメージはがらっと変わるはずです。

 ITの世界で高速ワイヤレス通信が実現したように、エネルギーの分野でも今後、ワイヤレス給電が間違いなく実現するでしょう。これが起きればあちこちにイノベーションが起こり、二次電池にも相当なインパクトを与えます。

 こんな話をすると「そんなことは絶対に無理だ」と言われるでしょう。しかし、IT技術がこれほど進化することを二十年前の人に説明してもきっと信用してもらえないように、今われわれがあり得ないと思うことが今後実現すると思うのです。たぶん、「そんなこと不可能だ」と思われることが当たりくじなんでしょうね。(聞き手 豊田真由美)

                   ◇

【プロフィル】吉野彰

 よしの・あきら 昭和23年、大阪府生まれ。京大大学院工学研究科修士課程修了。昭和47年、旭化成工業(現旭化成)入社。川崎技術研究所、イオン二次電池事業グループ長、電池材料事業開発室長などをへて、平成15年、特定の分野に顕著な業績を残したとして、高度専門職である「フェロー」に就任。17年から吉野研究室の室長も務める。リチウムイオン二次電池の開発者の一人として知られ、文部科学大臣賞科学技術功労者(15年)、紫綬褒章(16年)、“ロシアのノーベル賞”ともいわれるグローバルエネルギー賞(25年)など、国内外で数多くの賞を受賞。工学博士。

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