【経済デスク手帳】専門家もアタマを抱える 分かりにくい日銀「金融緩和修正」の狙いとは - 産経ニュース

【経済デスク手帳】専門家もアタマを抱える 分かりにくい日銀「金融緩和修正」の狙いとは

大規模金融緩和の修正について、記者会見で説明する日銀の黒田東彦総裁=7月31日、東京都中央区(宮川浩和撮影)
大規模金融緩和の修正について、記者会見で説明する日銀の黒田東彦総裁=7月31日、東京都中央区(宮川浩和撮影)
記者会見を終え、退室する日銀の黒田東彦総裁=7月31日、東京都中央区(宮川浩和撮影)
日銀本店=東京都中央区
 日本銀行が7月末の金融政策決定会合で、住宅ローン金利などの目安となる長期金利の小幅上昇を容認する「大規模金融緩和の修正」に踏み切ってから1カ月余り。物価が思うように上がらず、長期化を余儀なくされる金融緩和の「副作用」を減らすためだが、市場の動揺を避けるため今後も低金利を続けることを同時に約束する「どっちつかず」の内容だ。金融緩和がスタートして約5年半。当初の分かりやすさは影を潜め、専門家すら日銀の“真意”を読みあぐねる複雑な政策に変わりつつある。
出口? 強化?
 「日銀は(大規模緩和の)『隠れた出口戦略』を準備?」
 こんな刺激的なタイトルのリポートを8月上旬にまとめたのは、三井住友アセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジストだ。
 金融緩和の出口戦略とは、段階的に緩和を縮小する手法という意味で使われる専門用語だ。
 日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は会合後の記者会見で、「当分の間」は現行の金融緩和を続けると約束する「フォワードガイダンス(将来の指針)」を導入することに言及し、「早期に金融緩和の出口に向かい、金利を引き上げるといった一部の観測は完全に否定できた」と強調した。
 だが、市川氏はリポートで「出口戦略を進められる状況になれば、まずは国債などの買い入れ額の段階的縮小に着手すると思われる。隠れた出口戦略の準備を一応整えた」と分析した。
 これに対し、英紙フィナンシャル・タイムズは「『非常に低い』金利にこだわることで日銀は(出口戦略を進める欧米の)中央銀行のトレンドに従わず」という見出しの記事を掲載。欧米では、「フォワードガイダンスで当分の間の利上げは封印した」との見方が広がっているようだ。
「アルゴリズム取引」対策?
 筆者は、国内外の市場参加者の意見が割れているのは、もう一つ大きな理由があると感じている。
 それは、日銀の緩和修正の声明文タイトルが「強力な金融緩和継続のための枠組み強化(英文=Strengthening the Framework for Continuous Powerful Monetary Easing)」だったということだ。このタイトルを目にすると、瞬間的に追加の金融緩和と勘違いしてしまう市場参加者もいるのではないだろうか。
 いぶかしんでいたところ、みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストが8月上旬に公表したリポートで“解”を示してくれた。
 「『アルゴリズム取引』を意識してタイトルを工夫したのではないかという説もある」
 アルゴリズム取引は、過去の事例などを基にコンピューターが自動で株式のほか、米ドルや円などの為替を売買する仕組みだ。1000分の1秒単位の超高速取引を繰り返し、「日銀が金融緩和の縮小に動くときは円買いドル売り」と判断するようプログラムされている場合が多いとみられる。
 現在、米国は政策金利の引き上げ(利上げ)を進めているが、日本は金融緩和を継続している。このため、ドルと円の金利差の広がりを意識した投資家が円を売ってドルを買う動きを強め、円安ドル高の基調が保たれている。ドル建て資産で運用する方が高い利回りを確保できるからだ。
 ところが、日銀の今回の修正が緩和の縮小と受け取られれば、一部の投資家は日米の金利差が小さくなると判断し、円を買い戻しかねない。このため、日銀はタイトルで、「強力な(Powerful)」「強化(Strengthening)」と強さを示す2つの単語で「金融緩和継続」の言葉を挟み、「アルゴリズムの機械的な反応で円高ドル安に振れないようにした」という憶測もささやかれている。
修正のたびに分かりにくく…
 筆者は平成26~28年の約2年、日銀の金融政策を取材したが、今回の修正は複雑すぎて理解に苦しんだ。専門家の間でも侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が続く。
 大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは8月中旬のリポートで、「長期金利を上方シフトさせながら、円高・株安を招かずに済んだ。見事なできばえ」と評価する一方、「市場の見方は割れたまま、コンセンサス(総意)は固まっていない」と分析した。
 黒田総裁は25年に大規模緩和を開始。国債を大量に買って世に出回るお金の量を2倍、3倍と増やすことで物価を引き上げるという誰にでも分かる指針を示した。だが、その後は政策修正のたびに分かりにくくなっており、庶民も金融緩和に関心を持てなくなった。
 ただ、市場が日銀のメッセージを理解せず、信じなくなれば、金利が跳ね上がって住宅ローンを返せない人が続出したり、急速な円高・株安が企業業績を悪化させたりするリスクも意識されるだろう。日銀は金融政策の原点に立ち返って、「分かりやすさ」を自らに問い直してほしい。(経済本部 藤原章裕)
 
 日銀の金融政策  日銀は2%の物価上昇目標の達成を目指し、大量の国債を買って市場にお金を供給する大規模な金融緩和を平成25年4月に始めた。28年には、民間銀行から受け入れる当座預金の一部に手数料を課す「マイナス金利政策」を導入し、操作目標をお金の量から金利に転換した。今年7月の金融政策決定会合では緩和の長期化に伴う副作用を軽減するために政策を修正。長期金利の一定幅の上昇を容認し、上場投資信託(ETF)の購入では種類別の配分変更も決めた。