【サイバー潮流】標的は米だけじゃない 巧妙さ増すロシアのハイブリッド攻撃、その狙いは? - 産経ニュース

【サイバー潮流】標的は米だけじゃない 巧妙さ増すロシアのハイブリッド攻撃、その狙いは?

ハイブリッド攻撃を強化しているとされるロシアのプーチン大統領。背景には、他国に存在感を示したい思惑があるとみられている(ロイター)
7月16日、ヘルシンキで行われた首脳会談後の共同記者会見で、握手を交わすトランプ米大統領(左)と、ロシアのプーチン大統領(ロイター)
7月15日、ヘルシンキで、ロシアのプーチン大統領の仮面をつけて、トランプ米大統領との首脳会談の開催に抗議する男性(ロイター)
 ロシアによる選挙干渉やサイバー攻撃などを組み合わせた「ハイブリッド攻撃」の脅威が欧米などで広がっている。ハイブリッド攻撃を仕掛ける拠点を海外に設置し、発信源の特定を防ぐ巧妙な手口も判明。攻撃を強める背景には、経済低迷などで強国としての存在を示せなくなりつつあるロシアの「焦り」があるという指摘もある。 (外信部 板東和正)
攪乱(かくらん)作戦
 「複数の拠点を特定した」
 8月6日。東京都内で産経新聞の取材に応じた危機管理の米専門家、ラインハルト・ハリス氏(仮名)は独自調査で、ロシアがハイブリッド攻撃を仕掛ける拠点(アジト)が、モスクワのほか、ジョージア、バルト三国のラトビア、トルコの各首都に設置されていることを明らかにした。ハリス氏は「モスクワ以外の3国に拠点を設置した詳細な理由は不明」とした上で「欧州や中東などに拠点を広げることで、攻撃の発信源を特定されないようにする『攪乱作戦』の一環だろう」と指摘する。
 ハリス氏によると、計4カ所の拠点には、露情報機関の連邦保安局(FSB)と関係があるとされるハッカー集団「コージーベア」などの人員が配置。各拠点の人員は偽ニュースなどを自動的にインターネット上で拡散するプログラム「ボット」や人工知能(AI)も扱っており、攻撃は24時間態勢で仕掛けることも可能という。
 ハリス氏は「ロシアは最新のテクノロジーをうまく融合させて、ハイブリッド攻撃を効率的に行っている」と分析する。
拡大する「標的」
 近年のロシアによるハイブリッド攻撃の代表的な例が、2016年の米大統領選で民主党候補だったクリントン元国務長官の陣営幹部らのメールが流出した問題だ。米情報機関は、ロシアがサイバー攻撃でメールを流出させたとみている。
 ハリス氏は、冒頭の4拠点のいずれかが「米大統領選への干渉を主導した」と指摘する。
 4拠点が標的にしているのは米国だけではない。17年11月、英各紙は欧州連合(EU)離脱を選択した国民投票前に、ロシア政府との関連が疑われる数多くのツイッターアカウントが離脱への支持を呼びかけ、投票結果に影響を与えようとした疑いがあると報じた。ロシアの選挙干渉疑惑は、同年4月の仏大統領選、同10月のスペイン東部カタルーニャ自治州独立をめぐる住民投票などでも浮上した。
 ロシアのプーチン大統領は今年7月、米FOXニュースのインタビューで米大統領選の干渉疑惑について「米国内の問題にロシア領から数百万人の選択に影響を与えられると思うか? ばかげている」と一蹴した。
 しかし、欧州のセキュリティー専門家は「ハイブリッド攻撃は、世界の人口の大半が使うツイッターなどのソーシャルメディアが悪用されることが多く、影響力はすさまじい」と指摘。「国内政治の不安定化だけでなく、国際社会を混乱させるだけの威力があることをプーチン氏が知らないはずがない」と強調する。
 サイバー問題を担当する在日英国大使館政治部のキーア・ストラー氏も「ロシアは(情報の世論操作を)兵器化しようとしている」と危機感をあらわにする。
攻撃の背景は焦り?
 ロシアがハイブリッド攻撃に注力する背景には、世界に影響力を与える存在感を保ちたい思惑があるとみられている。
 ロシア経済はソ連崩壊後、原油高を追い風に経済の高成長を達成したが、その後、原油価格は急落。ウクライナ問題をめぐる米欧との対立も影響し、経済は低迷に苦しんだ。国民の実質所得は14年に前年比0・7%減、15年は同3・2%減、16年は同5・8%減、17年は同1・7%減-となっている。国内総生産(GDP)も伸び悩んでいるのが実情だ。
 ロシア情勢に詳しい未来工学研究所の小泉悠・特別研究員は「経済低迷などで世界に旧ソ連時代のような巨大な存在感を示せなくなっているロシアは、他国への影響力を強めるために軍事力だけでなく、サイバー攻撃や選挙干渉を強化せざるをえなかった」と分析する。別の専門家も「ハイブリッド攻撃を強化する背景には、他国に少しでも影響力を持つ強国に見せたいと必死になるロシア側の焦りがある」と話す。
 ロシアが存在感を維持するため、今後もハイブリッド攻撃の脅威は広がりそうだ。
【ハイブリッド攻撃】
近年欧米で生まれた概念で、プロパガンダやフェイク(偽)ニュースによる世論操作・選挙干渉▽発電所など生活インフラへのサイバー攻撃▽対象国内の反体制派支援などを行い、相手国の安定性を揺るがせる手法。少ないコストで実行できるほか、攻撃者の特定が難しく対処が困難などの特徴がある。