人間より公平?法曹界で進む人工知能活用 「AI裁判官」は生まれるか

サイバー潮流

 弁護士の業務や裁判所の審理での人工知能(AI)の活用が加速している。捜査資料の分類作業や公判調書の作成を効率的にこなすAIを開発する米英などが実用化に前向きだ。人間より公平な判断ができるとされるAIに裁判官を任せる「未来」も遠くないと予測する専門家も。機械が人を裁く倫理面の問題なども指摘される中、「AI司法」に実現性はあるのか。(外信部 板東和正)

処理速度は200倍

 「AIは弁護士業務の大半ができてしまう…」

 2017年。英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)などが、世界の法曹界を驚愕させるニュースを流した。汚職などを捜査する英政府機関「重大不正捜査局」(SFO)が、贈収賄事件に関する捜査関連書類の分類などの作業をAIに任せたのだ。通常は弁護士に依頼する作業だが「より迅速な作業が必要だった」(SFO関係者)。弁護士に依頼する場合、1日に分類できる資料は約3千件といわれるが、SFOが採用したAIはその200倍近い約60万件を処理。ミスも人間の弁護士より少なかったという。

 AIが弁護士業務の一部を担う取り組みは米国でも広がりつつある。

 ニューヨーク州弁護士の資格を持つスティーブン・ギブンズ氏によると、米国では裁判資料などの電子化が進み、AIが精査や分類の作業を行う取り組みが本格化しているという。

 米国の民事訴訟では、原告と被告が互いにあらゆる証拠の開示を求められる「ディスカバリー制度」が採用される。ギブンズ氏は「ディスカバリー制度で開示された膨大な証拠資料を効率的に精査するには、AIが有効だ」と指摘。「最近は、AIを活用して過去の判決のデータから裁判の勝率を予測する取り組みを行った例も聞く」と話す。

裁判官はAIの天職?

 AIの活用は弁護士業務にとどまらず、裁判の審理課程での導入も進む。

 中国紙チャイナ・デイリー(電子版)などによると、中国のIT企業が原告や被告、目撃者らの証言をリアルタイムに記録できるAIを開発。すでに中国内の数百の法廷で試験導入されている。大阪弁護士会の冨宅(ふけ)恵弁護士は「日本に限らず、法廷でのやり取りなどが記録される調書は書記官の聞き間違いなどによる誤りも少なくない。AIを使えば、書記官の負担が減ることが期待される」と指摘する。

 活用の可能性が広がりを見せる中、「裁判官もAIに任せられるのでは」と主張する意見もある。

 「AI裁判官」は過去の判例データを学習させることで実現するといわれる。AIの技術応用などを研究する近畿大の半田久志准教授は「膨大な過去の判例のデータを吸収し、人間より客観的な判断ができる点からAIにとって裁判官は適職だ」と分析する。

公平さに疑問符も

 ただ、一方で「AI裁判官」の実現には異論が少なくない。AIに期待されるはずの「公平性」に疑問を投げかける指摘があるからだ。

 米国の一部の州では、被告の犯罪歴や人種、薬物使用の有無などからコンピューターが保釈の認否などを判断するシステムを採用している。ただ、白人より黒人のほうがリスクを高く判定しているという見方もあり、AIの学習パターンなどによっては判断の「公平さ」が損なわれるのではないか-と疑う専門家もいるという。

 花水木法律事務所の小林正啓弁護士は「コンピューターやAIだからといって中立公正な判断を下すとはかぎらない」とした上で「機械が人の人生を左右する決定を下すことについて、倫理面の問題を指摘する声は国内外で多い」と語る。

 また、日本は過去の判例の多くが電子データとして保存されていない状況もあり、小林弁護士は「豊富な判例データがある米国とは異なり、日本はまだ判例をAIに十分に学ばせる段階には至っていない」と話している。

人工知能(AI) コンピューターを使い、人間の知能の働きを再現する技術。研究は1940年代に始まったが、近年は大量のデータから共通する特徴を見つけ、学習を繰り返す技術「ディープラーニング(深層学習)」が実現し、AIが世界最強クラスの棋士を倒すなど急速に進歩している。一方、人間の判断能力を超え、雇用が奪われることを懸念する声もある。