東京五輪守るサイバー連携 イスラエルから最新技術導入、課題は人材育成

東京五輪
日イスラエルの主なサイバー協力

 2020年東京五輪・パラリンピックに向けたサイバー対策で、日本がIT先進国、イスラエルとの連携を強化させている。五輪開催時にサイバー攻撃の標的になりうる電力やガスといったインフラの防衛対策などで協力が進む。一方、人材不足でイスラエル技術を使いこなせない課題も指摘され、日本の専門家の育成が急務になっている。(外信部 板東和正)

■最先端技術を「輸入」 

 「発電所がサイバー攻撃を受けたようだ」。原子力発電所などの運転をつかさどる「中央制御室」を模した室内に鳴り響く警告音。訓練に参加した約10人の電力会社社員に緊張が走る。茨城県日立市の工業団地。日立製作所の事業所にイスラエルの電力会社のサイバー技術を導入した日本初の訓練施設がある。施設の訓練では、日立社員が「サイバー攻撃者役」となり、本物に似せて作られた発電所の制御装置に誤作動を生じさせる。参加者は、実際の現場に近い環境で、システムの復旧などの対処方法を体験しながら学べる仕組みだ。

 訓練施設は、日立がイスラエル電力公社(IEC)の研究施設「サイバージム」のノウハウを導入し、昨年8月に運営開始した。施設では、IECがイランなどから1日に6千回以上受けているとされる攻撃を再現。サイバージムで訓練を受けた日立社員が講師を務め、緊急時の判断を参加者に伝授する。サイバージムの最高経営責任者、オフィル・ハソン氏は「日本のインフラのサイバー対策が強化される」と話す。

■世界一の防衛能力

 五輪中にインフラが狙われるリスクが指摘されたのは、2012年のロンドン五輪からだ。同五輪では2億回を超えるサイバー攻撃があり、開幕式で会場の電力設備を狙った攻撃が計画された。現在、インフラを破壊するウイルスは現在、週300~500個も開発されているとされ、脅威が高まっている。

 米国土安全保障省で危機管理対策に携わったセキュリティー専門家、ボブ・ジェンセン氏は「五輪をサイバー攻撃から守るためには1国では対応できない」と話す。協力国として注目されるのが、世界一のサイバー防衛能力を持つといわれる「8200部隊」を持つイスラエルだ。同部隊出身者が創業したIT企業「ケラグループ」はAI(人工知能)で犯罪者が攻撃の計画を密談する闇サイトに潜入し、攻撃の情報を先回りして入手する防衛技術を持つ。政府関係者は「ケラグループの技術を五輪対策で採用したい」と打ち明ける。

 また、セキュリティー企業「ラック」(東京)の佐藤雅俊氏は「イスラエルは国籍に関係なく、相手企業の信頼性を評価して情報共有をしてくれる」とパートナーとしての利点を指摘する。

■人材育成が急務

 一方、日本の現場で技術を活用できる「人材が不足している」(日本イスラエル商工会議所の小木曽明夫理事)。経済産業省は、サイバー攻撃などに対処できる人材が20年に20万人近く不足すると予測する。

 現状を打破するために、慶応大は今年3月、テルアビブ大などと人材育成の協力覚書を締結。交換留学の実施や日本の学生がインターネット上でイスラエルの学生とサイバー防衛について議論する取り組みを検討中だ。慶応大大学院の手塚悟特任教授は「イスラエルには、10代前半で選抜された生徒にプログラマーとしての訓練を実施するなど特有の教育システムがある。日本の学生が最先端の教育で育った現地の学生と切磋琢磨できる機会を作りたい」と話す。

 イスラエル駐日大使のヤッファ・ベンアリ氏は「人材育成や技術の共有など日本に幅広い協力ができる」としている。