「信頼できない」けど「やめられない」 フェイスブック不祥事 上塚真由

特派員発

 世界で20億人超の会員を抱える米交流サイト大手のフェイスブック(FB)が、個人情報流出問題で揺れている。米国ではFBのずさんな管理に批判が高まり、規制を求める声が噴出しているが、米社会では職場の同僚から友人関係まで、FBでのつながりが浸透。流出の「被害者」である利用者でさえ「手放せない」と語るなど、不祥事を受けても深刻なFB離れが起きていない米社会の深層に迫った。(ニューヨーク 上塚真由)

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 2014年6月。バージニア州に住むクリストファー・ディーソンさん(27)は、ネットの求人サイトにあった性格診断のクイズアプリを見つけた。クイズに答えると数ドル程度の報酬がもらえるため、以前から何度も同様のアプリを使っていたという。

 「何の違和感もなかった」。FBのアカウントを使ってアプリにアクセスすると、自身だけでなく「友達」登録していた205人分の名前や生年月日、位置情報、電話番号などの個人情報が吸い取られた。

 こうした情報はアプリの開発者である英ケンブリッジ大の研究者から、英データ分析会社のケンブリッジ・アナリティカ(CA)に不正に譲渡され、16年の大統領選でトランプ陣営のために利用された疑いが浮上。一大スキャンダルに発展した。その数は、ディーソンさんら回答者の約30万人だけでなく、その「友達」も含めて約8700万人分に上る。

 ディーソンさんは「友人の情報まで第三者に流出したことに怒りを感じる」というが、「FBの情報管理が甘いことは、IT業界では以前から有名だった。今回の流出問題に驚きはない。安全のためFB上に投稿する自分の情報は最低限にしていた」と明かす。

 同州でパソコンなどの修理業を営み、問題発覚後もFBを変わらず利用。「最大の理由はビジネスのため。顧客の95%はFBを利用していて、FB上で修理の依頼を受けることが多い。FB上でパソコン好きの地元仲間とのグループもあって、今さら手放せない」と話した。

 また、フロリダ州の遺伝子検査会社で働くオリン・マコーミックさん(28)はFB上の「友達」を通じて、自身の個人情報が流出した「8700万人」の一人。4月初め、FBからの通知を受けて被害が発覚した。

 マコーミックさんのもとには、16年の米大統領選の選挙期間中、民主党のクリントン候補や周辺者を中傷する真偽不明の記事が多く届いたという。

 「自分は偽ニュースと気づいて影響されなかったが、もし内容を信じた人がいて、大統領選の結果を左右していたら大問題だ」と憤る。ただ、マコーミックさんも「FBをやめるつもりはない。FBは世界で最も洗練された企業の一つだ」と言い切った。

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 「今回の問題を受けて、FBのアカウントを削除して退会した人はごくわずかだ。情報流出に怒りはあっても、米国人にとっては仕事だけでなく、友人や同僚との付き合いのための唯一で最大のプラットフォームで、FBから簡単には離れることができなくなっている」。米タフツ大フレッチャースクールのバスカー・チャクラボーティ上級副部長(国際ビジネス・金融)はこう話す。

 FBの株価は、流出問題が米紙などで報じられた直後の3月19日に9%近く急落し、時価総額370億ドル(約3兆9千億円)を失ったが、現在は問題発覚前の水準に回復した。FBが4月25日に発表した18年1~3月期決算では、最終利益が前年同期比63%増の49億8800万ドル(約5400億円)となり、四半期ベースで過去最高益を更新。広告収入が大幅に増えたことが理由で、ビジネス界も、「巨大経済圏」であるFBとの関係を断ち切れない実態が浮き彫りとなった。

 米ハーバード大の学生だったザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が2004年に始めたFB。06年に一般開放すると、わずか2年で利用者1億人を突破し、急成長を続けた。現在は、米国人の成人の約7割が利用しているという。

 ここまで定着した背景には、日本と比べて実名登録に抵抗がない上、多文化社会の米国ではFBを通じて人とつながったり、趣味などのグループに所属したりすることを好む人が多いとされる。「米国は自由競争主義が奨励され、規制よりも、技術革新を優先させてきた傾向にある」(チャクラボーティ氏)という風土も、FBを社会に浸透させた。

 ただ、影響力を増したソーシャルメディアの信頼度はここ数年下がっており、米調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、米国人の約半数が「信頼していない」と回答。とりわけ、FBは16年の大統領選では偽ニュースの温床となったと批判が強まり、「負」の面が色濃くなった。

 流出問題を受けて4月の米議会で証言したザッカーバーグ氏に対し、「どのように情報流出を防ぐのか何の約束もしなかった」(ディーソンさん)と落胆の声も聞かれる。

 チャクラボーティ氏は「米国での個人情報保護の考えは自主規制を尊重してきたが、IT長者に『正しいこと』を期待する時代は終わったようだ。これからは圧力が必要となるだろう」と話した。

EU・中国は規制強化で攻勢

 FBの個人情報流出問題を受けて注目されるのが、欧州連合(EU)の取り組みだ。5月25日に「世界で最も厳しい」とされる個人情報保護の新たな法律「一般データ保護規則」(GDPR)を施行。専門家の間では、FBなど米IT大手を標的にしているとの見方が広がる。

 GDPRは、商品やサービスをEU内に提供する域外企業も対象だ。企業側がデータ収集時に個人から「明確に」同意を取ることが義務づけられ、域外への持ち出しを原則禁止。違反すれば、最大で世界売上高の4%または、2千万ユーロ(約26億円)のうち高い方を罰金として科す。EUに住む個人がデータを消すよう企業に求めることができる「忘れられる権利」も定めた。

 FBのザッカーバーグ氏は5月の欧州議会で、GDPRと「価値観を共有する」と述べ、取り組みを支持する考えを表明。ただ、利用者への同意が求められる新ルールの下でデータの収集が難しくなれば、大量の個人情報を武器に広告収入を得るFBのビジネスモデルにも影響が出る可能性がある。

 技術革新を重視する米国に対し、プライバシー保護を第一に掲げる欧州。欧州が米IT大手に厳しい姿勢を示すのはこうした文化的な違いに加え、チャクラボーティ氏は、米欧の「覇権争い」があると指摘する。「欧州の政治家や規制論者の間では、米IT企業に欧州市場が独占されていることへの懸念があり、中国のIT企業の台頭で危機感はさらに強まっている。GDPRは、米企業などの活動に影響力を行使することが狙いだ」

 また、中国は国家による個人情報の監視に躍起だ。中国は2017年6月、「サイバーセキュリティー法」を施行、中国で収集したデータは中国で保存することや、海外に持ち出す際には当局による審査を義務づけた。中国による自国データの囲い込みとの懸念は強い。

 チャクラボーティ氏は「米中は人工知能(AI)開発の分野で激しく争っている。AI開発にビッグデータの活用は不可欠で、米国は自らの立場を苦しくするような規制強化に動くのは難しいだろう」との見方を示した。

フェイスブック インターネット上で、人と人をつなぐソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の一つで、ユーザー(利用者)数が20億人超の世界最大の交流サイト。米ハーバード大の学生専用のサービスとして2004年に始まった。実名での登録が原則。無料で利用できるが、利用者の属性を吸い上げて細分化した広告を売りに広告収入を伸ばした。売上高の約98%は広告収入。