中国が念願の原油市場を創設 米国の「ドル支配」に対抗

ビジネス解読
原油先物の取引開始式典=3月26日、上海国際エネルギー取引所(ロイター)

 暮らしに欠かせない石油・ガソリンの価格形成に中国の覇権主義の手が迫ってきた。

 上海先物取引所は3月26日、傘下の上海国際エネルギー取引所に中国の通貨・人民元建ての原油先物を上場、中国の先物市場として初めて外国人の参加も認めて、原油の国際取引市場を新設した。取引開始の式典には、中国共産党中央政治局委員で、上海市委員会書記の李強氏や証券監督管理委員会の劉士余主席が出席。劉主席は「(原油先物の上場は)上海が世界的な金融センターとなるためのマイルストーン(節目)だ」とその意義を語り、「中国の特色ある市場を建設し、うまく機能させる自信がある」と胸を張った。

 同取引所が原油取引の研究を開始したのは2001年。12年に中国政府が関連規制の改定など市場立ち上げの環境整備に入り、実に17年がかりで念願の市場開設にこぎ着けたという。中国政府がそれだけの時間をかけて周到に準備し、共産党幹部が取引開始に興奮を隠せないのは、この市場が原油取引に絶大な影響力を持つ米国の力の打破を狙ったものだからだ。

 世界の原油取引では、ニュースでもよく耳にする米ニューヨーク原油市場の「WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)」と英ロンドン原油市場の「北海ブレント」が2大指標だ。アジアでは中東のドバイ産とオマーン産の平均価格をベースとする指標もあるが、世界的には2大指標、特にWTIの変動が原油取引やガソリンなど石油製品の価格形成に大きな影響を与えていく。

 WTIはシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループ、北海ブレントはインターコンチネンタル取引所(ICE)と、ともに米国の2大取引所運営会社の傘下で取引されており、上場商品は基本的に米ドル建て、決済は当然ドルだ。つまり原油の商品取引市場は米国の手の内にある。産油国のイランやベネズエラが米国の経済制裁、特に金融制裁で経済苦に追い込まれるのも、原油取引を仕切る「ドル支配」の構図があることが大きい。これが基軸通貨ドルを持つ米国の影響力の源泉の1つでもある。

 だが、人民元で決済できる原油の取引市場が国際的な信認を得ることになれば状況は一変する。中国は米国の顔色をうかがうことなく、原油市場に独自の影響力を発揮する道が開ける。米国に距離を置く産油国の一部はドル支配に風穴が開くことを支持するかもしれない。実際、核開発問題で米国と角を突き合わせていたイランがユーロ建て原油取引を目指した例もある。

 さらにロイター通信によると、中国は原油先物市場への参入に続いて、自国の原油輸入の一部をドル決済から人民元決済に切り替える準備も始めている。対象にはロシア産とアンゴラ産が検討されているもようで、年内にも試験取引に着手する可能性があるという。

 中国の17年の原油輸入量は日量840万バレルに達し、米国を抜いて世界最大となった。一部とはいえ、最大輸入国の決済通貨が人民元となれば、原油市場での人民元の存在感は大きく増すだろう。今回、上海で取引が始まったのは日本が調達の約8割を依存する中東産原油だけに、中国の一連の動きがアジアの原油価格形成にどう影響していくのか、そして米国の影響力の低下、「ドル支配の終わりの始まり」になるのか、成り行きを警戒しないわけにはいかない。

 もっとも、市場関係者の多くは上海の原油先物市場の成功に懐疑的だ。人民元の使い勝手と、市場の流動性(売買の厚み)に大きな課題があるためだ。

 人民元は、国際通貨基金(IMF)の準備通貨(特別引き出し権=SDR)に認められたとはいえ、まだまだ国際取引の自由度は低い。昨年、中国政府が資本流出を嫌って人民元の海外への持ち出しを制限するなど、強い規制下にある。そもそも人民元は、為替相場の変動幅も当局が管理している。習近平政権の意向次第で取引環境が様変わりするリスクを抱える人民元建て市場に、中国企業以外の事業者や海外投資家がどれだけ参画するかは疑わしい。売り手と買い手の層が充実しなければ到底、巨額の投資マネーが流れ込んでいるWTIの影響力には及ばないとの見方が大勢だ。

 しかし、そうした評価はあくまで現時点の見立てだ。中国共産党内での権力集中が進んだ習近平主席は米国の覇権に挑む姿勢を鮮明にしている。原油取引のドル支配に対抗するため、人民元の国際化や金融市場の自由化にこれまでとは異なるスピードで踏み込む可能性も否定できない。

 習主席は昨年、サウジアラビアのサルマン国王との首脳会談で総額650億ドル(約7兆円)の経済協力を打ち出すなど、主要産油国との関係強化も進めている。一方、中国国有石油大手のペトロチャイナが今年3月、日本の国際石油開発帝石(INPEX)が持ち分を減らした、アラブ首長国連邦アブダビの海上油田の巨大鉱区権益を取得するなど、“紅いメジャー(中国版の巨大石油資本)”も勢力を拡大している。

 中国が世界の原油取引に影響力を発揮するための「舞台装置」はそろいつつある。上海市場の原油価格が「中国版WTI」として、世界の市場を揺らす日を夢物語とは切り捨てられない。(経済本部 池田昇)