神鋼、企業統治機能せず 誤った自信で常態化

モノづくり激震 不正の構図(上)
神戸製鋼所の大安工場(三重県いなべ市)

 自動車や航空機用のアルミ部品を手がける神戸製鋼所の大安工場(三重県いなべ市)。その一角では、ベテラン社員がヤスリやブラシを巧みに使って砂型(砂で作った鋳型)を製作していた。そこに溶かしたアルミを流し込み、冷やして固めれば鋳造部品ができ上がる。砂型は極めて精巧で、1つ作るのに3カ月以上かかることもある。まさに職人の世界だ。

 「他社には作れない製品も多い」。アルミ・銅部門の幹部は技術力を誇る。

 だが、不正はこの自慢の工場を含むアルミ・銅部門を中心に繰り返されたほか、鉄粉や銅管でも見つかり、問題製品の出荷先は525社に及んだ。

 「ウチは自動化されていて不正の余地がない。神戸さんは違うのだろうか」。アルミの競合メーカー、UACJの社員は首をかしげる。

 神戸製鋼の不正発覚を受け、UACJの岡田満社長は当初11月に予定していた社内点検の1カ月前倒しを指示。問題は見つからなかったという。

 工場から出荷される製品には、性能が契約を満たしていることを証明する「検査成績書」が添えられる。比較的新しい工場であれば、検査装置で収集したデータが自動でコンピューターへ送られ、検査成績書が作られる。

 ところが、神戸製鋼では多くの工場で自動化されておらず、検査装置のデータをいったん紙に書き取ってから入力していた。このため、データを改竄(かいざん)して入力する不正が横行していた。

 日本には、契約の性能に満たなくても顧客の了解があれば納入できる「特別採用(トクサイ)」と呼ぶ商慣行がある。トクサイ自体は正規の取引だが、神戸製鋼はこれを悪用。顧客の了承を得ず、データを改竄した製品も“トクサイ”と隠語で呼んでいた。

 トクサイで思い出されるのが、昨年発覚したグループ会社の神鋼鋼線ステンレス(大阪府泉佐野市)による日本工業規格(JIS)の違反だ。同社は、自動販売機などのばねに使う鋼線の強度試験値を改竄した。

 「トクサイだな」

 検査装置のデータに目を通した同社の品質管理室長は、部下に改竄を指示。室長は製造部門の技術担当課長を兼ねており、品質チェックよりも製造を優先してしまった。

 長年の不正が慣行となるうち、最も大切なモラルが失われてしまったのだ。

 神戸製鋼は、「複合経営」と呼ぶ独自の多角化を早くから進め、鉄鋼や建設機械、アルミ・銅など多くの部門を傘下に抱える。各部門の独立性は高い。製品や仕事内容が違いすぎるため、現場の社員が部門を超えて異動することはまずなく、多くが入社時に配属された工場でそのまま会社人生を終える。このことは、職人を育み、技術を伝承する上では役立ってきた。

 もっとも今回はそれが裏目に出た。改竄しても長年の経験で安全と分かっているから大丈夫-。そんな現場の「誤った自信」(幹部)が不正につながった。

 ある競合他社の幹部は、今回の不正を耳にしたとき意外な感じがしたという。昨年のJIS違反があったとはいえ、社員の印象は「公務員気質でとてもまじめ」。しかし、そうした社風もマイナスに働いた可能性がある。

 メーカーにとって納期は絶対だ。性能を満たせなければ供給責任を果たせない上、不良品の少なさを示す歩留まりが悪化して利益も減る。

 しかも、神戸製鋼のアルミ・銅事業はここ数年こそコンスタントに100億円以上の利益を稼ぎ出しているものの、それ以前はなかなか芽が出なかった。「まじめ」な現場が、納期や収益の重圧を強く感じていた可能性は否めない。

 川崎博也会長兼社長ら経営陣は、そうした現場の状況を正確に把握できていなかった。

 「少なくとも3工場で不正が行われていた可能性があります」

 川崎氏は、8月30日にアルミ・銅事業担当の金子明副社長からそう報告されてがくぜんとした。昨年のJIS違反で不正は絶えたと思い込んでいたからだ。その1時間前に部下から不正を知らされた金子副社長もショックを受けたという。

 各事業部門が「たこつぼ化」し、本社の監視の目が届きにくくなる複合経営の閉鎖性を川崎氏は実感していた。昨年4月から会長を兼ね、自らに権限を集中したのも経営管理を強化するためだ。

 「人事が固定化し、独自の誤った考え方が醸成されたのではないか」

 川崎氏は10日の記者会見で反省の弁を述べた。

 今年5月以降、川崎氏は大安を含む主要拠点に足を運び、新たに策定した社員の行動規範「3つの約束、6つの誓い」の徹底を現場社員に呼びかけてきた。3つの約束の最初に掲げたのが、「信頼される技術、製品、サービスを提供します」だった。

 しかしその後、長府製造所(山口県下関市)で不正の隠蔽(いんぺい)が発覚。行動規範はあっさり破られた。アルミ・銅部門の幹部は「個人的にはそれが一番ショックだった」と肩を落とす。

 10月の不正公表後、神戸製鋼ホームページから「3つの約束、6つの誓い」がひっそり姿を消した。

 「今回の件で信頼が揺らいでおり、仕切り直しのためにいったん外した。撤回したわけではない」

 勝川四志彦常務執行役員は10日の会見でこう釈明した。

 神戸製鋼の性能データ改竄、日産自動車とSUBARU(スバル)の無資格検査問題…。日本のモノづくりを揺るがす不正の根幹に迫る。