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【朝晴れエッセー】馬酔木(あせび)・5月4日

 ある人のエッセーを読んでいたら、川端康成が「別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます」と言っていると書いてあった。

 若いとき私には3年余り文通していた友がいて、5月のある日、奈良公園を案内したことがある。

 興福寺から猿沢池へおりて、しばらく歩くと小径があり「ささやきの小径」と書かれた木の標識が立てられていた。

 入っていくと、両側に鈴蘭のような可憐(かれん)な壺型の花が群れ咲いていた。花に見入っていると、「あせびだよ」と彼が教えてくれた。

 「ほら、牛や馬が食べたらしびれるっていう」

 それって馬酔木のことよねと思った。そして古典の時間に習った大来皇女(おおくのひめみこ)が、大津皇子(おおつのみこ)をしのんで詠んだ、「磯の上に生(お)ふる馬酔木を…」の馬酔木の花がこれだったのかと感動した。

 彼の顔は、おおかた忘れてしまった。だがこの季節になって暖かい空気に包まれて馬酔木の花を見ると、この花の名前を教えてくれたのが彼であったことを思い出す。

 そして、なにひとつ華やかな思い出もない娘時代だったと思っていたが、私にも青春時代はあったのだと、その頃の私を懐かしく思い出すのである。

 森本恵子 79 大阪府八尾市

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