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【朝晴れエッセー】懐かしき社宅・4月4日

 結婚後、20年間、社宅に住んでいた。

 その頃の私は、社宅住まいが嫌で仕方がなかった。特に新婚当時の社宅は手ごわかった。

 大都会の小さな社宅は、江戸時代の長屋のようなお節介(せっかい)な奥様方が住まい、プライバシーは皆無。厳格な序列が存在し、1日でも早く入居した社員の奥様がとにかく偉い。

 棟ごとに謎の奥様の会があり、月に1度の昼食会には万難を排して参加しなければならない。臨月の身で、棟を挙げてのゴキブリ退治に参加させられたときには、硬く張った腹をなでさすりながら泣けて仕方がなかった。

 子が産まれた後がまた、大変であった。

 子が泣けば、隣の奥様が飛んできて「厚着をさせるから泣くのだ」と言って、子を裸にする。紙おむつを手に下げて買い物から帰ろうものなら、奥様方が私を取り囲み、鬼の首をとったように「今の若い人は楽をしたがる」といさめる。

 いい加減、放っておいてくれと何度叫びそうになったことか。結句(けっく)、その社宅は1年半で逃げ出した。それからも別の社宅に住み続けたが、新婚当時の社宅ほどお節介で厄介な奥様方はいなかった。

 昨今、コロナで人と交わることが困難な状況の中、なぜか新婚当時の社宅の出来事をよく思い出す。コロナ下では考えられないようなお節介な人間関係が妙に懐かしい。

 田舎の一戸建てに住んでいる今の私は、新婚当時の私に言いたい。

 「社宅住まいも悪くなかったよ」と。

 冨樫直子 58 千葉県四街道市

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