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【記者発】震災の記憶に触れる意味 大阪文化部・渡部圭介

阪神大震災の発生直後、倒壊した阪神高速道路の様子をテレビでリポートする住田さん。発生当日は神戸の実家に帰省中だった(NHK大阪拠点放送局提供)
阪神大震災の発生直後、倒壊した阪神高速道路の様子をテレビでリポートする住田さん。発生当日は神戸の実家に帰省中だった(NHK大阪拠点放送局提供)

 今年1月17日の阪神大震災発生26年を前に、震災の記憶継承に取り組む元NHKアナウンサー、住田功一さん(61)を取材した。

 神戸出身の住田さんは発生当日、帰省していた。発生から18分後の午前6時4分、テレビを通じ、停電はしているが窓ガラスは割れていないなど、実家や周囲の様子を電話で報告した。

 NHKにとって被災地からの第一報となったが、住田さんがいた地域は実は被害が大きくなく、全体像と乖離(かいり)していた。住田さんは自著「語り継ぎたい。命の尊さ」(学びリンク)で《この6時4分という時刻は、いま振り返ると、住宅倒壊・生き埋めなどで、すでに何千人もの命が失われていた》と書く。その思いから、震災を語り継ぐ活動を続けてきた。

 今年の「本屋大賞」最終候補作、伊吹有喜さんの小説「犬がいた季節」(双葉社)に、思いがけず住田さんと同様の思いを見つけた。

 第3話「明日の行方」は阪神大震災がテーマだ。三重県に住む高校生の奈津子は揺れで目覚め、テレビをつける。祖母が神戸に住む。《神戸在住の記者からの電話レポートが流れてきた。停電はしているが、棚が倒れることはなかったらしい》。「記者」は住田さんだろうか。

 奈津子はいつも通り朝ごはんを食べ、登校する。神戸の祖母は三重に避難してきた。大学受験を控え、自分の日常に忙しい奈津子。しかし、祖母が神戸で体験した震災の現実を知る。自分がテレビを見ていた、あのときに。奈津子の《悔しい。何もできずにいた自分が》という思いは、住田さんと重なる。

 住田さんは震災時の経験から今も語り継ぎ、奈津子も誰かのためになろうと生き方を模索していく。

 私に震災の経験はない。大学のサークル活動で住田さんから震災の話を聞いた。聞かなければ、人の思いを伝える記者という仕事を選ばなかった。直接でなくても、震災の記憶は何かに影響を及ぼす。

 《あなたの触れただけの「震災」でいいのです。それを、あなたの心にとどめておいてほしいのです》。東日本大震災から間もなく10年。住田さんが自著の「エピローグ」に記した言葉を、改めて胸に刻む。

【プロフィル】渡部圭介

 平成13年入社。水戸、福島、京都の各総支局を経て大阪社会部で行政や警察を取材。29年から文化部で書籍の紹介や在阪放送局の取材を担当。

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