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【風を読む】WTOの暗黙のルール 論説副委員長・長谷川秀行

 WTO次期事務局長に正式承認されたナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相=15日、米ワシントン近郊(ロイター)
 WTO次期事務局長に正式承認されたナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相=15日、米ワシントン近郊(ロイター)

 やっと辞退したのかと、紙面をみてまずそう思った。世界貿易機関(WTO)の事務局長選で最終的に残った2候補の一人、韓国産業通商資源省の兪明希通商交渉本部長が5日に撤退を表明したときの感想である。歩調を合わせて兪氏を推していた米国も、もう一人の候補、ナイジェリア元財務相のオコンジョイウェアラ氏の支持に回り、昨年以降、大いにもつれたWTOのトップ選びは同氏の選出で決着した。

 率直に言うと、筆者は兪氏をトップにすべきではないと考えていた。通商の責任者として日本と対韓輸出管理の厳格化で対立したこともあるが、それだけではない。例えば韓国は昨年、日本製バルブへの課税をめぐるWTO訴訟で日本に敗れたにもかかわらず、反日世論に迎合するように是正勧告の履行期限を守らなかった。反日なら何でもありの文在寅政権の高官だけにルールをないがしろにするのではないか。そんな疑念を拭えなかったのだ。

 この思いを強くしたのは、ジュネーブのWTO関係者の間でも昨年来、次のような韓国批判が出ていたからである。新トップが取り組むべきはWTOルールの再構築なのに、兪氏は立候補段階で自らルール破りをするのか、という冷ややかな指摘である。

 ここでいうルールとは明文化されたものではなく暗黙のルールだ。全会一致が原則のWTOでは事務局長選も投票ではなく、加盟国の合意形成で候補を絞り込む方式をとる。今回は昨年10月末段階で、日本や中国、欧州など多くの支持がオコンジョイウェアラ氏に集まり、兪氏と大差がついたことをWTOが示していた。本来ならここで一本化を図るため兪氏は撤退する。それがWTO関係者の期待していた暗黙のルールだったのだという。

 ところが兪氏はなかなか辞退しなかった。中国が支持する候補を嫌がる米国の意向に配慮し、身動きが取れなかったのだろう。だが、バイデン政権発足まで決断を遅らせた結果、トップ不在の異常事態を必要以上に長引かせたのは確かだ。ただでさえコロナ禍が自由貿易を揺さぶっている。もっと早く事態を収束させられなかったのか。皮肉を込めて逆説的に言えば、決着に誰よりも胸をなでおろしているのは、ほかならぬ兪氏本人かもしれない。

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