【朝晴れエッセー】朝のはじまり・2月16日
「オーライ、オーライ、ストーップ」
地下鉄千代田線湯島駅で、降りる。朝7時20分過ぎに春日通りにでると、威勢のいい、エネルギーに満ちた低音の声が響く。
その声が聞こえた日は、「今日はラッキー」とうれしくなり口元が少しキュッと上がる。
目を閉じて、その声を聞くと、スポーツ競技場のトラックを走っているランナーにも聞こえる。実際にその姿を見ると、某テーマパークのキャストにも見える。
ある時は、失礼ながら、テレビで放映されていた『きかんしゃトーマスとなかまたち』の主人公で、一番の働き者トーマスに見えるときもある。
その声は、文京区のゴミ収集業務に従事する職員の方々である。数名がチームを組み、回収をする方、後片付けをする方、運転者、一人一人が役割をはたし、それは見事なチームプレーである。
チームの動きは無駄がなく、黙々と回収し、流れるようにテキパキと走っている。
コロナ禍の今、ゴミ収集業務には危険やご苦労が多いと推察されるが、その姿に接すると、凜としたなかにも温かさを感じる。まさにランナーでもあるし、職人技である。
そのチームが走り去った通りは、清々(すがすが)しく、まるで街が生き返ったかのようにキラキラと光っている。
生き返った通りを私は、御徒町(おかちまち)駅の方向に一歩一歩と踏みしめて進む。歩きながら「今日も一日、自分に与えられた仕事に、精いっぱい取り組もう」と、心の中で呪文のように唱えながら、私の朝が始まる。
小林淑子 60 東京都渋谷区