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【日曜に書く】論説委員・森田景史 「世論」に膝を折るのか

東京五輪まで半年。国立競技場前に飾られた五輪マーク=22日午後、東京都新宿区(松本健吾撮影)
東京五輪まで半年。国立競技場前に飾られた五輪マーク=22日午後、東京都新宿区(松本健吾撮影)

 誰が確かめたわけでもないのに、「常識」として世の中に流布した説は少なくない。

 〈人体を構成する細胞の数は60兆〉はその一つで、科学者の間で長く信じられてきた。細胞1個の重さで人の体重を割るなど、大雑把(おおざっぱ)な計算で割り出した数字が、いつの間にか定説になったとされている。

 2013年に「人の細胞は37兆個」との論文が発表されたとき、世界の科学者は仰天した。体の各部位にある組織ごとに細胞の数を求め、その総和として導いた数だという。

 細胞生物学者で歌人としても名高い永田和宏さんは、自戒を込めて書いている。

◆常識なんてそんなもの

 「根拠の曖昧な事実も、それが繰り返し言われているうちに、どんどん真実のように思えてしまう。常識なんて得てしてそんなものである…」(『知の体力』、新潮新書)

 わが身を省みても、常識とされるものへの疑いを捨て、盲目的に受け入れる愚は日常的に犯している。社会を見渡せば、なおのことだ。

 新型コロナウイルス禍が拡大の一途をたどる中、今夏の東京五輪・パラリンピック開催には「およそ8割が否定的」というのが常識になりつつある。メディア各社の最近の世論調査では、「中止」と「再延期」を合わせれば、概(おおむ)ねそのような数字に集約されている。

 多くのアスリートは「世論」の前に膝を折り、辞を低くして五輪を語っている。悲しい時代だと思う。

 バドミントン男子のエース、桃田賢斗でさえ、昨年12月の記事では五輪開催への真情を問われて、言葉を濁した。

◆辞を低くする競技者

 「開催してもらいたいという気持ちは選手としては当然あるが、命の危険性や周りの人たちの気持ちを不安にさせてしまうのはよくない。(中略)自分のことだけを考えてはだめなので、なんとも言えない」

 五輪開催に否定的な意見の中には、「五輪という言葉を見るのも聞くのも嫌」という辛辣(しんらつ)な声も当然あろう。「頑張っているアスリートは応援したいけど」といった同情の声も恐らくあるだろう。

 しかし、埋もれてしまった声にまでアプローチする手立てはない。8割という数字だけが、実体を持つ「世論」として幅を利かせている観がある。

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