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ニュース コラム

【記者発】アンパンマンにやられた 政治部・田中一世

 休日は自宅にこもりがちで、子供につられてDVDやテレビのアニメを見る時間が増えた。

 「それいけ!アンパンマン」は、変装したばいきんまんが子供たちに悪さをし、駆けつけたアンパンマンからパンチを一発浴びて家に逃げ帰る。お約束のストーリーを何度も見ているうちにイライラが募ってきた。

 登場人物はいつまで変装にだまされ続けるのか。アンパンマンはなぜ、ばいきんまんを再起不能にしないのか。だから懲りずに何度も悪さをしに来るのではないか-。繰り返し寄せる新型コロナウイルスの波が重なって見え、暇つぶしの昼酒がいらだちを加速させる。

 ただ調べてみると、再起不能の手前で止めるのには意味があるようだ。原作者のやなせたかしさん(平成25年没)は生前、小学館から発行された自著でこう語っている。

 「バイ菌は食品の敵ではあるけれど、アンパンをつくるパンだって酵母菌という菌がないとつくれない。(中略)善と悪とはいつだって、戦いながら共生しているということです」

 「人間は、常にバイ菌やウイルスとの戦いです。(中略)戦いが続くなかで、生きる力を得ていくのです」

 それが分かると、アンパンマンは人類の過去と将来を指し示す名作だと感じる。ときに恐怖をあおり立てるメディアのあり方を考えさせられる言葉でもある。政府は2月中のワクチンの接種開始を見込む。状況の好転が期待されるが、とはいえウイルスが消滅するわけではない。

 ちなみに、ばいきんまんの変装が見抜かれないのは、人を疑うことをしない世界だからだとか。誰かがせき込む音に疑心暗鬼になる社会と比べればうらやましくもある。

 子供向けだと思っていた「愛と勇気」を高らかにうたう世界観は今の時世に響く。

 アンパンマンは決して強くない。顔が濡(ぬ)れれば戦えず、ジャムおじさんに助けを求める。その両手はいつもグーの形をしている。やなせさんは、悲しいときに「握り拳をつくってみてください。そして、その握り拳で涙を拭くのです」と記す。

 著書の表題は「絶望の隣は希望です!」。今はグーで耐えるときだと思いたい。

【プロフィル】田中一世

 平成16年入社。大阪社会部、九州総局などを経て政治部で首相官邸や自民党、防衛省などを担当し、昨年10月から主に野党を取材している。

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