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【朝晴れエッセー】黒豆・1月26日

 「壁に投げつける! 転がって落ちるようではいかん」と、大きな体の辻徳光先生は右手を振りあげられた。そして「ペチャッ!!と貼りつかなあかん」と満面の笑顔。

 昨年末、私はペチャッを目指して黒豆を洗った。10歳上の姉の日本割烹学校のノートには、外米のおいしい炊き方、代用食を栄養価高くなど、とてもお料理とは思えないようなところもあったけれど、美しく盛りつけられた日本や西洋のお料理が描かれていた。

 短大を卒業すると、友を誘い、私も日本割烹学校へ入った。

 ただ1つの広い教室で、他の先生による中華や日本料理の実習のときであっても、先生は実習のテーブルをまわり、うろうろ。捨てられた玉葱の輪切りなど、ひょいとつまみあげ、黒い部分だけ切り取って捨て「白い部分は、食べられる」などとおっしゃる。

 ある日、大きな平たい包丁をかざされて「これ、何に使うか分かる人、手を挙げて。正解者には、この千円札をあげよう」。「えっ! 残念」とおっしゃり、千円札は先生の懐に収められた。私は結婚後、セールでこの包丁を見つけ、とびついて買った。

 以来、何十年、西瓜(すいか)を切る度に、このときのいたずらっ子のような先生の目と、誰も手を挙げられなかった千円札を思い出す。

 今は、おいしい、が溢れているけれど、黒豆はおばあちゃん、のうれしい言葉を楽しみに、コトコト黒豆を炊く。とろ火の湯気で台所は暖か-。

田中清子 84 大阪市中央区

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