【主張】コロナ国会 特措法改正を最優先で 非常時にふさわしい論戦を
通常国会が召集され、菅義偉首相が就任後初めての施政方針演説を行った。
安全保障、経済、憲法などテーマは多いが、最大の焦点は新型コロナウイルス対策である。
新型コロナ感染症が全国で広がり続け、11都府県で緊急事態宣言が発令中だ。感染者や重症者の数は、昨年4月の宣言時を大きく上回る。入院先や宿泊療養先が見つからない人が東京都で7千人を上回るなど、大都市部を中心に医療崩壊が始まっている。
菅首相や閣僚、与野党の国会議員は「非常時の国会」を肝に銘じてもらいたい。コロナ禍が収束しなければ、当たり前の暮らしは戻らず、繁栄の道を歩めない。
≪心に届く発信が必要だ≫
与野党は、政府が22日にも提出する特別措置法改正案や感染症法改正案の成立を最優先に取り組むべきだ。令和2年度第3次補正予算案と3年度予算案の早期成立も重要だ。有効なコロナ対策を建設的に論じ合い、実際の施策に反映させる必要もある。
菅首相は演説で、コロナとの「闘いの最前線」に立ち、難局を乗り越えていくと決意を語った。
飲食店の営業時間短縮の必要性や30代以下の若者の外出や飲食が感染を広げている問題を訴えた。2月下旬までにワクチン接種を始めるよう準備中だとし、特措法改正、コロナ病床の増床についても説明した。それはよいとしても、首相が最近語ってきた内容を繰り返している感は否めない。
国民の自粛疲れや、若者らのコロナへの慣れが人の移動の大幅削減を妨げている。演説は、首相が国民に協力を求める絶好の機会だったが、通り一遍の語り掛けとなった印象だ。
非常時の国会だ。人々の心に響く言葉がほしい。菅首相は自らの演説や会見、答弁の中身に、もっと工夫を凝らすべきだ。それもリーダーとしての務めである。
感染力の強い変異種が海外で猛威をふるい、水際対策強化は一層重要になっている。ところが首相は演説で、収束後の観光立国を説く一方、現在進行形の課題である水際対策は語らなかった。問題意識のありように不安を覚える。
与党は18日、特措法と感染症法の改正案を了承した。特措法改正案は知事が事業者に時短などを命令できるようにし、拒否には罰金を科すことができる。時短などに応じた事業者に対する、国や自治体の支援義務化とセットである。緊急事態宣言の前段階として「蔓延(まんえん)防止等重点措置」も設ける。
感染症法改正案は、入院を拒んだ感染者に「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」の刑事罰を設ける。国や知事の医療機関への感染者受け入れの協力要請を「勧告」に強め、従わなければ機関名を公表できるようにする。
≪水際対策にも力尽くせ≫
安倍晋三前内閣当時から政府は特措法改正は「新型コロナの感染が収束した後に検証、検討する」としてきた。だが、昨年のコロナ感染が比較的緩やかなうちに、法改正を実現し、都道府県とともに医療提供体制を整えておくべきだった。当時官房長官だった菅首相は失策を率直に認めるべきだ。
今回の改正案は私権制限につながるとの批判がある。例えば憲法が保障する移動の自由に反するというが、憲法第22条1項には「公共の福祉に反しない限り」との条件がある。感染症との戦いは「公共の福祉」であり、法改正は認められる。入院を拒む感染者への罰則は、当人に加え、他の人々の生命と健康を守るための合理的な措置といえる。
時短や休業要請には経済的な手当てが伴わなければならない。改正案が国や自治体による「支援」を義務化することは妥当だ。
国会は、本会議や委員会の定例日、開催時間の慣例にこだわらず迅速に審議を進めてもらいたい。論点は多く、週末や夜間も活用すればいい。平時の感覚を捨てて国民のために尽くしてほしい。
立憲民主党など野党は昨年の通常国会の初期に、コロナよりも「桜を見る会」などの疑惑追及にのめりこんで批判を浴びた。今国会で政治とカネの問題は論じられるべきだが、コロナをめぐる論議や対策を妨げる愚は避けたい。
菅首相も国会も、国民がコロナ対策に進んで協力する気持ちになるような働きを示すときだ。現在実施中の対策の変更や強化も、ためらってはならない。