【社説検証】年頭の社説 民主主義の後退に危機感 「中国にこびるな」と産経
元日付各紙は、日本と世界が今、直面する試練や課題を提示した。新型コロナウイルスへの言及はもちろんだが、目立ったのは、民主主義後退への危機感である。優位に立とうとする中国式権威主義への警戒感でもあり、産経は、中国の日本懐柔を断固はねつけるよう訴えた。
「厄介な危機感が膨らんでいる。私たちの民主政治がコロナへの対応能力に欠けているのではないかという疑念だ」と毎日は指摘した。米国で感染者が1900万人を超え、世界最悪となる一方、最初に感染者が確認された中国は、都市封鎖や情報技術(IT)を使った監視強化など、強権手法で感染拡大を封じ込めた、と米中を対比させた。
民主主義の先進国では、中間層以下の所得が伸び悩み、寛容さが失われ格差と分断が拡大した。ポピュリスト政治家が幅を利かせ、米国でトランプ政権が誕生し、英国は欧州連合(EU)を離脱した。「困難な状況下でコロナが襲来したことが危機に拍車をかけた」と毎日はみる。
日経は「コロナ禍で表面化した問題の解決に向け行動をおこす再起動が必要」とし、重点を置く一つとして、民主主義を挙げた。コロナ対策でも非民主的な権威主義国家の方が効果をあげているとの指摘があり、コロナの発生源とされる中国の経済回復は早く、日本の輸出も中国頼みが鮮明になっているという。
「中国は昨年6月末に香港に国家安全維持法を施行し、民主活動家の弾圧など強権ぶりを強めている。日米欧など民主主義国家が、格差など社会問題や国民の不満を民主主義的な手法で解決し、自由で開かれた民間主導の資本主義を磨き直すことが急務である」と論じた。
産経は例年、論説委員長の署名論文を年頭の主張として掲載している。論文は、日本が過去2度、中国共産党を救ったと指摘した。一つは1989年6月の天安門事件を受け、日本が西側諸国の共同制裁に反対するなど、中国を擁護したことであり、先月公表の外交文書でもその実態が明確になった。もう一つは、37年、日本軍が中国で全面戦争に突入した結果、敵対した国民党と共産党の「国共合作」が成り、劣勢だった共産党軍を息を吹き返したことだ。
「いま再び、中国は西側諸国の『反中同盟』を切り崩そうと日本を懐柔しようとしている。手始めが、習近平国家主席の国賓来日実現だ」「3度目は、絶対にあってはならない。もし習近平来日に賛成する政治家や官僚がいれば、それはまさしく『国賊』である」と断じた。
読売の年頭の社説は普段の倍近いボリュームがあり、論点は環境問題や国際情勢、社会保障など多岐にわたった。その中で「変化に引きずられて平和と安全、自由と民主主義など、国家の基本に関わる大切な価値を失うことがあってはならない。何を変え、何を守り抜くか。物事を見極める英知と実行する勇気が、いま問われている」との見解を示した。
朝日は長崎原爆資料館の入り口に掲げられた「長崎からのメッセージ」を紹介する形で、世界規模の「巨大リスク」として、核兵器、環境問題、新型コロナを挙げ、「立ち向かう時に必要なこと その根っこは、同じだと思います。自分が当事者だと自覚すること。人を思いやること。結末を想像すること。そして行動に移すこと」との一文を引用した。東京は今月、核兵器禁止条約が発効することに大きな期待を寄せ、「コロナ禍の今、私たちが思い知ったのは対立の虚(むな)しさでした。国境を超え世界が協調する時に、国境を争う核兵器など何の意味もなさないということです」と説いた。
年頭の社説は、コロナ禍に見舞われることを知らず、東京五輪・パラリンピック開催へ期待を膨らませた1年前とは、トーンががらりと変わった印象になった。(内畠嗣雅)
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■元日付の各紙社説
【産経】
・年のはじめに/中国共産党をもう助けるな
【朝日】
・核・気候・コロナ/文明への問いの波頭に立つ
【毎日】
・コロナ下の民主政治/再生の可能性にかける時
【読売】
・平和で活力ある社会築きたい/英知と勇気で苦難乗り越える
【日経】
・2021年を再起動の年にしよう
【東京】
・年のはじめに考える/コロナ港から船が出る