【スポーツ茶論】逆転の箱根駅伝 五輪も波乱? 津田俊樹
正月2日の夜、ホロ酔い気分を吹き飛ばす1通のメールが届いた。
「箱根駅伝をテレビ観戦していたら、選手のユニホームに広告が入っていました。どういうことでしょうか」
母校応援のため、時には東京・大手町と芦ノ湖の間を往復するほど熱心な箱根ウオッチャーの鋭い指摘に、すっかり酔いがさめた。
翌3日、復路がスタートすると、レース展開よりユニホームに集中する。確認できたのは、駒沢、創価、青山学院、東洋、東海、国学院、明治、法政、専修、国士舘。それぞれのユニホームに企業や自治体のロゴが入っていた。
箱根駅伝は関東学生陸上競技連盟主催のレース。単なる関東大会なのに、今や、正月の風物詩、国民的行事までになった。コロナ禍によるステイホームの呼びかけで、テレビ桟敷が例年以上に盛況となり、平均世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ 関東地区)は往路31・0%、復路33・7%、平均32・3%といずれも歴代記録を更新した。あるスポンサーは「おかげさまでわれわれも興奮しました。順位など関係ありません」とアピール成功に手放しの喜びようである。
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世界陸連(WA)が2019年12月にユニホームにおける広告規程を改定したのを受けて、日本陸連は昨年4月、「改定に伴う国内適用について」というルール変更を発表し、スポンサーも40平方センチ以内といった一定のルールでシャツとパンツにそれぞれ1つ表示できるようになった。
陸上界は厳格なアマチュアリズムを貫いてきたが、1981年、WAの前身、国際陸連(IAAF)の会長に就任したプリモ・ネビオロ氏が賞金レース導入に踏み切り、広告とテレビ放映権料による莫大(ばくだい)な富をもたらした。
同会長はプロ化を推進、商業五輪の原点といわれる84年ロサンゼルス大会成功にも貢献し、その後、国際オリンピック委員会(IOC)委員に就く。足跡については「20世紀最高のスポーツマンの一人」とたたえられる一方で「商売上手のビジネスマン」と評価が分かれる。
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スポーツビジネスの象徴といえば、五輪である。1年延期された東京大会の追加経費は総額2940億円になり、そのうちの約220億円は契約期間を延長した国内スポンサー68社で負担するという。コロナ禍によって収益が落ち込み、社員の給与を削減しなければならない企業にとっては苦渋の決断だったろう。
昨年11月、IOCのトーマス・バッハ会長がチャーター機で来日したのは危機感のあらわれだった。小池百合子都知事をはじめ、組織委、国のトップが開催に向けて意欲満々の発言を繰り返すのも、頼みの綱とするスポンサー向けのパフォーマンスである。
東京大会が中止になり、収益の大半を担うテレビ放映権料が入らなければ、来年の北京冬季、24年パリ夏季大会に波紋が広がり、商業五輪の将来に暗雲が漂う。
IOC批判を強めるワシントン・ポスト紙はNHKの世論調査で「開催すべきだ」が27%にとどまったことを引用しながら、「IOCは世論より収入ばかり気にしている」と鋭い矢を放つ。
箱根駅伝は最終10区で大逆転の幕切れだった。五輪開催可否にも波乱が起きるのか、勝負どころ、いや、決断の時が近づいている。