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【日曜に書く】論説委員・井伊重之 コロナが広げる社会の溝

 菅首相が1都3県に緊急事態宣言発令の検討を表明したことを伝える東京・渋谷の大型ビジョン=4日午後
 菅首相が1都3県に緊急事態宣言発令の検討を表明したことを伝える東京・渋谷の大型ビジョン=4日午後

しわ寄せ受ける非正規

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、1都3県に再び緊急事態宣言が出された。今回の宣言は飲食店に営業時間の一段の短縮を求めるなど対象を絞った形だが、その取引先を含めて業界に与える打撃は大きい。

 政府や自治体は時短営業などに対する協力金の増額を打ち出しているものの、先行きが不透明なこともあって店主やオーナーの憂色は濃い。このままでは店が潰れるとの危機感を募らせる店主たちの間では、自治体の時短要請に応じない動きも出ている。

 日本経済にとっても影響は深刻だ。なかでも懸念されるのは格差の拡大である。コロナ禍が始まってちょうど1年が経過する中で、飲食店の経営を断念する動きが広がれば、そこで働いていた人たちも仕事を失う。飲食業界では雇用形態が不安定な非正規で働く人が多く、失業に対する補償は脆弱(ぜいじゃく)だ。

 厚生労働省のまとめでは、コロナ禍の影響で失業した人は累計で8万人を超えた。このうち飲食業の失業者は1万人を上回り、製造業に次ぐ高い水準だ。宿泊や観光関連の失業者も多い。これらはハローワークなどに寄せられた相談から類推した人数にすぎず、氷山の一角と考えるべきだろう。

 政府は企業が従業員を解雇せず、休業にとどめた場合に支払う雇用調整助成金の特例を講じているが、民間シンクタンクの調査によると、飲食店などの休業に伴い、そこで働いていたパートやアルバイトなどの女性で休業手当を受け取っていない人が7割にのぼるという。欧米でもコロナ禍で失業するのは女性が多いという格差については「シーセッション」として問題視されている。

株価は30年ぶりの高値

 その一方で株価は空前の金余りを背景にして30年ぶりの高値圏で推移している。豊富な資金を保有する富裕層は、金融投資を通じて自らの資産を増やしている。野村総合研究所が2年ごとに公表する国内の富裕層動向調査によると、金融資産(不動産を除く)が1億円以上の富裕層と同5億円以上の超富裕層は、合計で133万世帯と過去最多を更新した。

 この調査で興味深いのは、超富裕層と富裕層が保有する金融資産は2年前の調査よりも順調に増加したのに対し、金融資産が3千万円未満のマス層と同5千万円未満のアッパーマス層ではともに減少している点だ。これらの層は金融資産を取り崩しているとみられ、金融資産を増やす富裕層との格差が広がっている実態が示された。

 格差の拡大は、社会の活力を奪うだけでなく、社会の安定性も大きく揺るがすことになりかねない。今回のコロナ禍では、リモートワーク(在宅勤務)に切り替えられない対面サービスに携わる人たちの厳しい現実が浮き彫りになったが、そうした労働者も非正規が多く、雇用の安全網から抜け落ちやすい面を抱えている。

最低所得保障の論議も

 こうした中で日本でも「最低所得保障(ベーシックインカム)」の導入論議が活発化してきた。これはすべての国民に一定金額を支給し、必要最低限の生活を保障する仕組みだ。政府は昨年、コロナ禍で国民に一律10万円の特別定額給付金を支給したが、これを毎月実施するイメージだ。

 竹中平蔵東洋大教授が導入を提案し、最近では財界の一部からも支持する声が上がっている。ベーシックインカムを導入する代わりに生活保護や国民年金などの社会保障給付は削減されるが、それでも制度を整備するには多額の財政支出が必要となる。「中福祉・中負担」を目指してきた日本の社会保障制度の大きな転換となる。

 日本でより現実的なのは低所得者を対象にした給付付き税額控除だろう。これは減税と現金給付を組み合わせた制度で、昨年11月には東京都の税制調査会も導入を提言した。ただ、導入にあたっては、マイナンバーで所得を詳細に把握することが必要になるため、自民党税制調査会幹部は「日本にはなじまない」と否定的だ。

 格差問題に敏感な欧州では、以前からベーシックインカムの導入論議が盛んだ。スペインやイタリアでは一部で導入されたが、財政事情が響いて低所得者らを対象にした限定的な仕組みにとどまる。世界で格差是正に向けた議論が本格化しつつある中で、日本でも新たな仕組みづくりが問われそうだ。(いい しげゆき)

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